気がつけばいつもそこにある、同じ色。
例えば、街の中だったり。
例えば、戦っているときだったり。
例えば、部屋で休んでいるときだったり。
いつも見かけるその色を、何よりも綺麗だと思うのは―。
飛空艇ファルコンの中。
そこにある個々に与えられた部屋で、ティナはソファーに腰掛けて午後のお茶を飲んでいた。
テーブルの向かい側には部屋の主、エドガーが書類を眺めている。
カップを抱えてエドガーを見ていたティナは、あることに気付いて質問を投げかける。
「ねえ、エドガー。」
「なんだい、ティナ?」
投げかけられた方、エドガーは書類を眺めていた最中にだったにも関わらず、
渋い顔1つせずにすぐに顔をティナに向け、微笑む。
その優しさが嬉しくて、ティナはつい、くすぐったいような笑みを浮かべてしまう。
「あのね、エドガーはいっつも青い服を着てるなぁって。好きな色なの?」
「・・・え?」
訊ねられたエドガーは思わず目を丸くしてしまった。
そして、顎に手を当てて、しばらく考えてみる。
「いや・・・好きな色だから着てるかどうかなんて・・・考えたことなかったな。」
エドガーは記憶を探りながら答えた。
「考えたことが・・・ない、の?」
エドガーの答えに今度はティナが目をぱちくりさせた。
服は体温の調整や体の保護のほかに、自分が好きだと思う色や素材のもので着飾るという、
おしゃれの意味もあるとセリスから聞いたことがある。
そういえば自分が持っている服も赤やピンクなどの可愛らしい色、ティナが好む色が多かった。
だからエドガーも青い色が好きだから青い服ばかりを着ている。
そう思ったのだが、考えたことがないという答えが来るとは思わなかった。
不思議そうに自分を見るティナに、苦笑を浮かべながらエドガーが説明する。
「青、水の色である青はフィガロでは神聖な色とされているんだ。
そのせいか、物心ついたときから青い服ばかり着させられていたよ。
だから好きかどうか、というより、もう習慣だね。」
「そうなんだ・・・。」
エドガーの説明を聞いたティナがわずかに表情を曇らせ、再び訊ねた。
「じゃあ、エドガーは好きな色の服が着られないの?
それって、なんだか寂しくない?」
ティナはまるで自分のことのように悲しげな表情を浮かべて、エドガーを見る。
海の底のような深い蒼の瞳が、揺れた。
エドガーはその蒼を、空のように澄んだ蒼の瞳で見つめた。
たかが自分の服の色ごときでこんなにも必死になってくれる。
その懸命さを嬉しく、そして愛しく思った。
そして、それと同時にあることに気付き、フッと微笑み、答える。
「いいや、全然寂しくないよ。
俺は着る服が全部同じ青色でも構わない。」
そして、立ち上がりテーブルを回り込む。
「え?何故?」
ティナはエドガーの瞳から目を逸らさずに問う。
エドガーはティナの問い掛けに答える前に、ティナの隣りに腰を下ろした。
そして至近距離でティナの瞳を見つめながら言った。
「だって・・・ティナの瞳の色だからね。
青が好きになった。」
自分のすぐ目の前にいる瞳に微笑まれ、ティナは悲しげな表情から一転して思わず顔を赤らめた。
それを見てさらに愛しさを募らせたエドガーは、ティナの肩を引き寄せ抱きとめて、彼女に髪に触れる。
「それに、緑も好きだ。
いつか機会があったら、緑の服も着たいな。」
「・・・わ、私の髪の色だから?」
エドガーの胸の中でティナは真っ赤になってどもりながらも、なんとか訊ねた。
「そう♪」
その答えにエドガーが満足だと言わんばかりに満面の笑みを浮かべ、ティナの髪に口付けた。
「もう・・・。」
真っ赤になってしまったティナは、火照りを誤魔化すように呟くと、しばらくそのままの体勢で静かにしていた。
何かをしようにも、胸の鼓動が大騒ぎしていて動けない。
でも、今のこの状態が嫌だとは露ほどにも思わなかった。
エドガーはそんなティナの様子が嬉しくて嬉しくて、幸せそうにティナを抱く手に力を込めた。
しばらくして―、
「・・・エドガー。」
「何?」
「私も、青が好き。」
「何で?」
「だって、貴方の目の色だから。
あとね、金色も。」
「俺の髪の色だから?」
「・・・うん。」
「そっか、ありがとう、ティナ。」
その色が好きな理由は色々あるけれど。
それがあなたを示す色だとわかると、前よりもっと好きになる。
だから、何よりも綺麗だと思うのは、あなたのことが好きだという、動かぬ証拠―。