「……っあっ!……はぁ……はぁ……。」
闇の底で誰かが起き上がった。
「ぐっ……!ようやく、再生が終わった……畜生、どいつもこいつも……!」
その声の主は黒いスーツに身を包んでいた。
身体を二つに割るように縦に走る亀裂が見苦しい。
彼は火の国の宝剣に身を裂かれる直前に、自らの精神を別世界にバックアップさせたのだ。
よって、彼はニ度目の死を体感し、三度目の生を受ける。
「まだだ……私はまだ死なんぞぉ……。あの世界を残したままで終われるかぁ〜〜〜!」
黒いスーツの男が喉が裂けるのではと思わせるような咆哮をあげた。
しかしその背後に、
「生きることに一生懸命なのは良い事だ。
でも、ちょっとやり過ぎじゃないの、死に損ないさん。」
白い法衣姿の女性が立っていた。
「!!」
女性の気配に全く気づけなかった男は驚き、勢い良く振り返る。
「誰だ貴様!!」
「世界を結ぶ召喚士。そしていい女修行中。」
「召喚士……だと!なんでそんな奴がここまでこの世界に介入する!」
「確かに私らはそこまでは許されていない。
でも、彼らの近くにいるが故に彼らの幸せを願う気持ちが強いのよ。
許されずとも時としてその心は何かを変えるきっかけになる。
私は召喚士としては未熟も未熟の半人前だけど、
彼らと出会って得たものがある。
彼らと出会ったことで、今ここにいる。
私にとって、彼らは大切な友なのよ。
……その友をいじめ続けてきたお前達が嫌いだ……セプテントリオンのGA。」
女性の瞳が怒りで紅く光る。
壬生屋と話していたときの穏やかな雰囲気とは違い、周囲を焦がすような空気になる。
空気に押されてスーツの男――GAは後ず去る。
女性の放つ空気、殺気が大きくなっていく。
「ひ、ひいぃっ!!」
GAは女性から逃れるべく、背を向けて走り出す。
だが、すぐに見えない壁のようなものにぶつかり足を止められた。
「無駄だよ。
今この世界で一番力が強いのは私だから。
――舞い散れ。」
女性は右人差し指を真っ直ぐGAに向けた。
「ああーーーーぁぁっっっ!!」
GAの身体が業火に包まれた。
あまりの熱さに必死になって、炎を振りほどこうとのた打ち回るが全く消えない。
苦しみ喘ぐGAを、女性は冷ややかに見守った。
「その炎はお前を完全に消すまでどうやったって消えない。
どんなに再生しようとも、お前を滅ぼすまでお前を燃やし続ける。
彼らが受けた傷、痛み。失ったモノ。無駄にされた時間。
それを想った私の心がその炎だよ。」
「あーあ、やっちゃったみたいだねぇ〜。」
「速水……。」
女性が振り返ると、速水がぽややん笑顔で立っていた。
それまで女性が見ていた方向にあった炎はもうない。
「なんで君がここにいるの?」
「“頂点のアラダパワー”でさっきの人がここに逃げ込んだのを知ってね、トドメを刺しに。
でも先越されちゃったなぁ……。
それよりも……いい女がそんな恐い顔しちゃまずいんじゃない?」
「うえぁっ!そうだ!しまったぁ!!」
速水に指摘され、女性は殺気を解いた。
瞳の色が元の黒っぽい茶に戻る。
「ま、僕達のためにしてくれたのはとっても嬉しいよ。ありがとう。」
「いやいや、お礼を言われることじゃないって。
………未央ちゃんは無事?ぐっちーは?」
「二人とも無事に手術は成功したよ。
君のアフターケアもばっちりだからもう大丈夫でしょ。」
「そっかぁ〜、よかった〜。」
速水からの報告を聞いて、女性は安堵の息を盛大に漏らした。
満面の笑みを浮かべる。
それを見た速水がやや呆れたような笑顔で尋ねる。
「君は本当に、あの二人にご執心だね。」
「そりゃあ、そうだよ。
あの二人には思い入れがある。
特に未央ちゃんには。
あの子のおかげで私が居るの。
だから未央ちゃんには、幸せになってもらいたい。
ぐっちーはその、なんつーか……他人の気がしないからね。ほっとけない。」
「さいで。その情熱を少しでも僕と舞や他のことに使えればありがたいんだけど。」
「うっ……!それはそうだけど、仕方ないじゃん縁が濃すぎて。」
「確かにね。無理しちゃ意味が無いもんね。」
「そゆこと〜。人生はゆっくり遊んで生きるもんだよ。
急ぎすぎて大切なのも見過ごしちゃ意味が無い。」
「かといって、遊び過ぎるとお師匠さんに怒られちゃうよ♪」
「うっ……!心の傷を広げないで……。
うむぅ〜……がんばってるもんこれでも。足りなくても、可能な範囲で。」
「まぁね。昔よりはずっと良いよ。」
「本当?ありがとう。そう言ってくれると嬉しい。
………がんばるよ、死ぬまで。
そんじゃ、そろそろ帰るわ〜。」
「うん、お師匠さんによろしく。」
「機会があったらね。じゃね♪」
速水が手を振る。
女性も手を振る。
見送られた女性は白い光になると、闇を駆け上がり元の世界――第7世界に戻っていった。