わたくしは、夢を見ていました。
数年前、まだ未成年だった彼に喫煙を咎めるという夢。
実際にあった出来事なので、“夢を見た”というより、
“過去の記憶を思い出している”といった方が正しい気はしますけれど。
喫煙を咎められた彼は、困った顔をするかと思いましたが、
口元を吊り上げて、いつものいたずらを企んでいるような顔になり、
「そうだな・・・体にも悪いし、未央の髪に臭いが移るのも嫌だからやめるよ。
でも、口寂しくて我慢できなくなるとまた吸っちゃうだろうから、代わりに・・・。」
「代わりに?」
彼が喫煙をやめてくれるのならば、わたくしに出来ることは何でもやってみせよう。
そういった決意を持ちながら訊ね返したわたくしに向かって、彼は、
「キスさせて。そうしたら口寂しいのなくなるだろうから。」
と言った。
その言葉を受けたわたくしは顔中が熱くなり、そして・・・。
そのもやの向こうから〜Lonely Night〜
そこでわたくしは目を覚ましました。
数年前、あの後わたくしがどうしたか鮮明に覚えています。
その時の光景が目に浮かび、わたくしは思わず頬を赤らめてしまいました。
時刻は今、夜の3時過ぎ。
窓からは月の光が射していて、少し眩しいくらいです。
月が眩しくても辺りはとても静かで、まだまだ目覚めるような時間ではないということを知らせてくれます。
それでも目が覚めてしまったのは、
「・・・隆之さん。」
いつもは隣りにある体温が今はなく、少しひんやりしている所為でしょうか?
わたくしは身を起こすと、彼がいつからいないのか数えました。
彼が任務の都合で出かけてから、今日で4日目になります。
見送るときあの方は、
いつ帰って来るかわからないと言っていましたが、なるべく早く帰ってくるとも言っていました。
そしてその後に彼が言っていたのは、
『いいか?俺がいなくて寂しいからって、絶対に浮気なんかするなよ?
俺は未央が待っていてくれるなら、寂しくなんかない。
だから、俺も浮気なんて絶対にしないから、いい子にして待ってるんだぞ。』
「・・・嘘つき。」
おかしくて頬を緩ませながら、わたくしはそう呟いた。
誤解させないようきちんと説明致しますが、
彼を嘘つきと言った理由は“彼が浮気をしないなど無理”ということではありません。
彼が見ているのはわたくしだけだと、今は十分に承知しています。
正解は“寂しくなんかない”と言ったから。
見送るときにそう言っている彼自身がまず、とても強がっていて、
離れがたいとでも言っているような、寂しそうな目をしていたのですもの。
その目をしながらそう言われても、“嘘つき”としか返せません。
しかし、本当にそう言って、
彼がわたくしがいないと寂しくて仕方がない人間だということを指摘してしまったら、
彼は任務へと旅立てなくなる。
だからわたくしは、
『わかっております。お気をつけていってらっしゃいませ。』
と、ちょっと近所まで出かけてくるのを見送るような、
いつもと変わらない口調で言って送り出した。
すると彼は、何か物足りないとでも言うかのような表情になリ、
ため息をついて気分を改めると、
『・・・行って来る。』
と言ってわたくしの髪を一撫ですると、旅立っていった。
それから4日、未だに彼は帰って来ていない。
今ごろ、寂しくて唸っている頃だろう。
あの寂しがりやな彼のことだから、まず間違いない。
それに・・・。
・・・寂しいのはわたくしも一緒だから、絶対にそうだと断言出来る。
それこそ、“夢にまで見るほど”なのだから。
寂しがりやなわたくし達は、一体いつまで耐えなければならないのだろうか?
だから、
「早く帰ってきてくださいね、隆之さん・・・。」
窓から見える月にそう言って祈ると、わたくしは1人分の暖かさしかないシーツに身を沈めた。
どうか早く帰ってきてくれますように・・・。
わたくしと貴方のどちらかが、寂しくて泣いてしまわないうちに・・・。
・・・どうか、早く。
〜〜終〜〜
「このもやを切り裂いて」の書き忘れ箇所をアレンジして、近衛さんの彼女さん視点にしました。
ちなみに、数年前近衛さんに「キスさせて。」と言われた後に彼女さんがどうしたかは、皆さんのご想像におまかせします。
その想像の数だけ答えがあります(笑)
「このもやを切り裂いて」の書き忘れ箇所をアレンジして、近衛さんの彼女さん視点にしました。
ちなみに、数年前近衛さんに「キスさせて。」と言われた後に彼女さんがどうしたかは、皆さんのご想像におまかせします。
その想像の数だけ答えがあります(笑)