帰ってきた瀬戸口無双



 
 九州某所の公園内、軽トラの陰にて、
「うぅっ・・・わたくし、もうお嫁に行けません・・・!」
「あー・・・まぁあれだ、犬に噛まれたようなもんだと思って・・・って、そんな気分になれないか。」
泣いている少女を青年が慰めていた。
少女の名は壬生屋未央。
自衛軍で知らぬ者はいない、幻獣の天敵と名高い5121小隊の一番機パイロットだ。
青年の名は瀬戸口隆之。
その5121小隊のオペレーター兼副司令である。
経歴と歳を合わせて考えてみると大分特殊な立場の2人だが、もっと特殊なのはそんなことではない。
なんと、壬生屋はナース、瀬戸口は巨大アフロのダンサーのコスプレをしている!!
しかし、2人は趣味でこんな恰好をしているわけではない。
数年に渡る攻防の末奪われた地を取り返すために行われた九州奪還戦。
予想することが出来ない幻獣軍の行動、慎重さを欠いた攻勢作戦の失敗などで、
九州上陸以来戦闘続きであった5121小隊は疲労が溜まりついにガタがき始めた。
このままでは1人、また1人と脱落しやがて小隊は崩壊。
切り札を失った自衛軍は幻獣と戦えるだけの力を失い、日本は滅ぼされてしまうだろう。
よって、ここで海兵旅団長・善行忠孝から1つの指令が下された。
“5121小隊に12時間の休暇を命じます――。”
これにより5121小隊員全員、戦闘班・整備班問わず全ての隊員が12時間のあいだ戦争を忘れ、
ただの少年少女に戻るよう命じられた。
そのために悪ふざけ好きな整備班+事務官が提案したのはそう、“仮装くすぐり大王”なのだ!!
くすぐり大王といえば、かつて熊本某所で爆発的に流行った遊びで素朴にして健全、
これといった道具も必要なくある程度の広さの場所と人数が集まればすぐにでも出来るという、
教育委員会も泣いて喜ぶシンプルな遊びだ。
それに5121小隊オリジナルで仮装という要素を付け加えたがために、
2人は己のクジ運の良さ(あるいは悪さ)によってこのような恰好をになっているのである。
そのあまりの白熱ぶりと隊員達のコスプレ姿を見に近隣の小隊員達が集まってきていて、
公園内は某国の熱狂的なサッカーファンの方がマシというくらいの一種のお祭り騒ぎだ。
そんな中でゲームはまだ続いているのだが、2人はこっそりと抜け出してきていた。
何故かと言えば・・・、
「だって、だって、わたくし、あんな大勢の前で・・・!」
本日壬生屋が着ているナース服は現場で本物のナースが着ているようなものではなく、コスプレ用のかなり丈が短いものだ。 うっかり屈むだけでスカートの中身が見えてしまいそうなほどである。
そんな恰好で大王に選ばれた壬生屋は追いすがる家臣――特にかなり変態度が高い者から逃げるために、
その高い身体能力で高く高く跳躍した!
そしてそのために、壬生屋を追っていた家臣、壬生屋を守るために近づいていた瀬戸口、
近くにいたギャラリーにその・・・・・・かなりきわどいところを見られてしまった。
「泣くなよ〜、きっとそのうち皆忘れちまうだろうからさ、な?」
そう言って壬生屋を慰める。
しかし、被害が被害だし、具体的にどのくらいの方々にどんな角度でどんな風に見えたのかはわからないが、
少しでもそのことについて連想させようものならさらに事態は悪化してしまうので、
「でも・・・。」
慰めの言葉もさして効果はない。
やれやれ・・・と思いながら心の中でため息を吐く。
こんなゲームを考えた企画者に文句を言うように天を仰ぐ。
これはもう、どんなに慰めようとも復帰するには時間がかかるだろう。
ならばもう、とっととこんな場所から離れてお祭り騒ぎが収まるまで2人きりでどこかに行ってよう。
瀬戸口は立ち上がって壬生屋に手を差し出した。
「まあ、とりあえずだ。
 しばらく公園から離れて、おいかけっこが終わるまで待ってよう、な?」
「そうですね・・・はい。」
壬生屋は何の反論もなしに瀬戸口の手を取る。
普段の壬生屋ならば“なっ・・・!戦いの途中で逃げ出すなど出来ません!!”とでも言うものだが、
精神的ショックが大きすぎて再び戦いの場に身を投じる気力がない。
今、誰かに幻獣相手に死闘を繰り広げるのとギャラリーの前でナース姿で走るのどっちが楽かと聞かれたら、
圧倒的大差で前者を選ぶ。
瀬戸口は壬生屋の手を引っ張って立たせると、肩を抱いて、
「よし、じゃあ行こうか。」
と言って、公園の出口へと足を向けた。
しかし、そのとき!
「「「「「「「「「「待てええ!!」」」」」」」」」」
2人の行く手を塞ぐ者が現れた。
しかも1人2人ではなく複数。
前方ではダメだと瞬時に背後を振り向くが、背後はおろか四方八方を囲まれており逃げ出すことは出来ない。
そんな組織だった動きで伝説の5121小隊戦闘班の2人の動きを止めることが出来るのはそう、
同じく歴戦を戦い抜いてきた自衛軍の皆さんだった!!
「・・・一体何のようですか、皆さん方?」
瀬戸口が内心で冷や汗をかきつつ、壬生屋をかばう様に抱き寄せる。
その瞬間、何故だか辺りの熱気が上がったのは気のせいだろうか?
瀬戸口の問いを受け、前方を囲っていた一団から1人の兵士が一歩進みだす。
見た感じ歳はあまり行ってなくて階級もそんなに高くはなさそうだがなんだろう、
どういうわけか周囲を囲っている全ての兵とは何かオーラ的なものが一段と違い、
彼がこの集団を率いているのはよくわかった。
「聞かれては名乗らないわけにはいかないな。
 俺達はそう、自衛軍有志一同による“未央りんファンクラブ”の者だ!!」
「「「「「「「「「「おおぉぉぉぉーーーっっ!!!!!!」」」」」」」」」」
リーダーが名乗りを上げると同時に、周囲を囲っている未央りんファンクラブ一同が一斉に雄たけびを上げる。
そのあまりの迫力に壬生屋は何が起こっているのかわからずに茫然とし、
瀬戸口は瞬時に事態をなんとなく把握し、呆れと怒りがない交ぜになったものを感じた。
2人の言葉を待たずにリーダーは話をし始めた。
「我々の目的はそう、侍にして可憐な少女である壬生屋未央大尉を見守ることだ。
 だから瀬戸口大尉、貴方が壬生屋大尉と付き合っていることについては反対しない。
 しかし!しかしだな!!
 我らがアイドルがこのような素敵なナース姿をしているというのに、それを我々から遠ざけるというのは我慢が出来ん!!
 よって、2人には申し訳ないがここから移動するのはやめていただきたい!!!」
「そうだそうだ!!」「俺達の女神を連れて行くな!」「こんなレアな現象、そうそうあるわけねぇんだぞ!!」
「未央りーん、こっち向いて〜〜。」「てゆーか、その手をどけろアフロ大尉もどき!!」
リーダーが話終えると同時に、ファンクラブ一同から野次が飛ぶ。
中にはカメラやビデオを構える者が何人もいた(“何人か”の誤植ではなく、そう、“何人も”)。
周囲から飛ばされる野次に壬生屋はまだ現状が把握出来ないなりに何かを感じ取って恐怖から瀬戸口に身を寄せる。
なんだろう・・・くすぐり大王やってた頃より遙かに怖い。
こんなんなら幻獣共生派リーダーのカーミラとやらが爆弾を大量に仕掛けた場所に突っ込む方がまだいい。
瀬戸口は何も言わないままだったが、明らかに心の底から苛立っているようで、
「このクソ馬鹿兵士どもが・・・いくら欲求溜まってるかって、ふざけるんじゃねえぞ・・・!!」
普段の穏やかな彼ならば絶対に言わないような言葉遣いの悪さで俯きながら深くため息を吐くと、
「きゃっ・・・!」
「「「「「「「「「「うおおおおおおおっっっっ!!!」」」」」」」」」」
壬生屋に何の断りもせずに彼女を抱きあげた。
彼女の膝を抱えて、肩に腰かけてもらうような形になる。
それを見ていたファンクラブの者共からは嫉妬と怒りと羨望と悔しさと苦しみと、
愛しさと切なさと心強さ・・・ではなく、心細さが混じったような叫びが聞こえた。
「うちの小隊の馬鹿騒ぎが原因とはいえ、こんな浮かれた状態の奴らに壬生屋を見せ者にするわけにはいかない。
 突破させてもらう!!」
そう鋭く言い放つと瀬戸口は壬生屋を抱えたまま、包囲を突破すべく未央りんファンクラブの集団に襲いかかった!


 瀬戸口はとりあえず突っ込んでった先にいたリーダーの顔面を蹴飛ばす。
不意打ちの渾身の一撃を喰らい、リーダーは鼻血を垂らしながらあっけなく倒れて気を失った。
どんな戦いでも真っ先に指揮官を叩くのは有効な戦法である。
“萌え”というたった1つの感情だけで集った者達だ。
主な活動内容は女神を見守ることで元々何かと戦うことを想定して集まったわけではないのだから、
リーダーさえ叩けばあっという間に指揮系統が乱れてファンクラブの包囲に穴が出来る・・・と思いきや、
「ああっ!!」「リーダーが殺られた!?」「ちっくしょう・・・なんてことを!!」「リーダーの仇!!」
リーダーが倒されたことで、逆にファンクラブ一同の士気が上がった!!
思えばそう・・・。
彼らをまとめ上げ、“共に壬生屋大尉への愛を貫こう”と言ってくれたのはリーダーだった・・・。
戦場で孤立し、幻獣に囲まれ死を覚悟したときに“馬っ鹿野郎!もう1度未央りんの勇姿を見ずに死んでどうする!!”
と再び生きる気力を与えてくれたのはリーダーだった・・・。
瀬戸口といい雰囲気になっている壬生屋大尉を見て思わず涙がこみ上げてきたとき、
“泣くな。俺達が泣くのを許されるときはそう・・・俺達の女神がステージの上で大太刀を置き、
 『わたくし、普通の女性に戻ります』と言って退役するときだけだ。
 それまでは、俺達で陰ながら女神を見守っていこう!!”と、
新たに未央りんファンとして生きていく気持ちを強くしてくれたのはリーダーだった!!
そんな・・・そんなリーダーが真っ先に・・・。
俺達未央りんファンが憎んでも憎みきれないあんなヘタレ男に殺られたなんて・・・!!
なんて、なんて無念であろうか!?
ファンクラブの誰かが嫉妬のあまりヘタレ男を後ろから狙撃しようとしたときに、
“やめろ。あんなヘタレ男でも死んだら未央りんが悲しむ。俺達が望むのはあの子の笑顔だろう?”
と言って止めていたが俺達は知っている。
本当はリーダーが1番ヘタレ男に嫉妬していて、許されるのなら迫撃砲を打ち込むくらいのことはしたいと思っていることを!
それでも愛する女神のために笑顔で耐えていたんだ。
それをコイツは・・・この男は!!
一瞬でリーダーを亡き者にしやがったっ・・・・!!
ダメだもう・・・全然ダメだ!!
例え天が許しても、こいつだけは許しておけねぇ!!
「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーっっっ」」」」」」」」」」
リーダーを失ったファンクラブ一同は士気が下がるどころか、決死の覚悟で瀬戸口に襲いかかる。
彼らの想いはただ1つ。
リーダーが再びこの地に甦ったときのため、そして何より俺達のために。
絶対に未央りんをここから出させない!!
明日には激戦区に行って死ぬかもしれない俺達のささやかな願い・・・一目でも多く未央りんを見守るためにも!!
「未央りんが愛してるのが俺達じゃなくても・・・。」「未央りんが俺達のこと知らなくても・・・。」
「一目見たときから消えないこのトキメキのため・・・。」「死線を越えてまた明日もドキドキしたいから・・・。」
「たった1つの萌えで繋がった俺達の絆のためにも・・・。」「例えどんなに後ろ指刺されようと・・・。」
「他の奴らにどん引きされても・・・。」「今はただ、俺達の誇りと友情のために・・・。」
「「「「「「「「「「俺達は、こんなところで負けられねぇんだよ!!!!!」」」」」」」」」」
もしここで勝利を収めたとしても、愛しのあの子が愛するのは俺達じゃない。
ただ今まで通り、見ているだけの日々に戻ってしまう。
しかし、そのただ見るという行為にどれだけ救われたことであろう。
俺達の愛は、決してただ1人のあの男に負けやしないんだ。
1人1人では勝てなくても、皆が一緒なら負けないんだ。
それを証明するためにも、ここでぶつからなきゃ男が廃る!!


 「あちゃ〜〜〜〜・・・。」
瀬戸口は壬生屋を担いでファンクラブ一同を蹴散らしながら、途方に暮れていた。
リーダーを真っ先に叩いたのがこんなに痛手になるとは。
リーダーを失った群衆は戦闘意欲むき出しにして、少しでも壬生屋に触れようと襲いかかってくる者もいるし、
少しでも多く壬生屋のナース姿を記録に残そうとカメラやビデオを構える者もいる。
こんな血気盛んなおっさん達に壬生屋を触れさせるのはもちろんだが、撮った写真や映像で後で好き勝手されるのも嫌だ。
しかし、今は萌えに突っ走るめんどくさいおっさん達だとはいえ、この国の未来のために人類の天敵と戦う兵士達なのだ。
怪我を負わせて戦線に影響を与えるわけにはいかない。
だから瀬戸口は面倒でもファンクラブ一同を極力傷つけずに追い払わなければならないし、
壬生屋のためにも、今この場にある記録媒体は全て壊して回らなければならなかった。

「未央りーーん!!」「俺達の女神ーー!!」「こっち向いて〜〜〜。」「笑って笑って〜〜。」
「キモいわ!」「アホか!」「どりゃ!」「はっ!」
バシッ!ガズッ!パリーン!グシャー!
「ぐふっ!」「ああーーっ!!」「あー、俺の秘蔵の一眼レフが!?」「高かったのに〜〜!!」
「死ねーーっ!!」「動くな!コラ!!」「つーか、邪魔だよく取れねぇだろうが!」「よし、いいアングル!」
「たあっ!」「せいっ!」「知るかあ!」「ふざけんな!!」
ゲシッ!ドフッ!ピシッ!ズドゴンッ!!!
「ちっくしょーー!!」「がはっ・・・!」「はうっ!!」「せっかくのパンチラが・・・。」
「ちょ・・・見たのかおい!見たんだな!!今すぐ記憶を消しやがれーーーー!!!」
ガスガスガスガス・・・ドフドフドフドフ・・・ドカーンドカーングリッガシャア!!!
「じゅ・・・12連コンボ・・・ガクッ。」

 ・・・とまあ、こんな具合だ。
元々かなりの戦闘能力があるのに加えて、
壬生屋を守らなければならないという使命を抱いている瀬戸口がそう簡単に負けることはない。
しかし、こう数が多くてハンデだらけでは楽では決してない。
だからといって、記憶媒体を全て消してここを突破する以外に道はない。
「あの、瀬戸口さん。わたくしも加勢しましょうか?」
壬生屋は自分を担いで奮闘する瀬戸口の顔を見下ろして尋ねる。
今この場で起こっている戦いがどういったものなのかは未だによくわからないままだが、
自分を担いだままこんな大勢を相手に戦っている瀬戸口のためにも、共に戦った方がいいのではと思ってきた。
だが瀬戸口は、
「いや・・・。
 お前さんに殴られたり蹴られたり投げられたりは、奴らにとってむしろご褒美だ。」
「ご、ご褒美・・・?」
瀬戸口は真剣な顔で敵を見ながら答える。
壬生屋は言われた意味がよくわからない。
「だから、お前さんは絶対に手を出すな。いいな!」
「は、はい・・・。」
意味はよくわからないが、ここは素直に従った方が圧倒的によさそうだ。
1人で戦い続ける瀬戸口には申し訳ないが、彼が少しでも戦いやすいように彼の体にしっかりくっついていよう。
互いの重心を少しでも引き寄せた方が、動くときにブレが少なくなって動きやすいはずだ。
壬生屋は瀬戸口の肩に腰かけたまま身を低くして、瀬戸口の首に抱きついた。
「おお!ありがたい!!
 そっちから掴まっててくれた方がこっちも楽に動ける・・・(いい匂いだし)!」
「貴方1人に戦わせてばかりでは申し訳ありませんから・・・(は、恥ずかしい・・・)。」
流石運命の恋人同士!
いついかなるときでも互いを想う心を忘れない!!
しかし、それを見たファンクラブ一同は、
「「「「「「「「「「ぅおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっっっっっっ!!!!!!」」」」」」」」」」
エヴ○ンゲリ○ンが暴走したときのような、この世のものとは思えない咆哮をした(つーか、作品が違うよ)。
だがしかし、それも無理からぬことだ。
壬生屋の今の体勢はそう、瀬戸口の頭に上から胸を押し付けている状態になっているのだ!!
あの器量と侍の心に“神は不平等だ!!”をまんま実行しているようなふくよかな胸。
いくら夢見ても叶えることが出来ない俺達の夢を、あんなヘタレ男に・・・!!
ヘタレ男が被っているアフロヅラはかなり巨大なので、おそらくその感触を味わえていないことだけがせめてもの救い。
だが!だがしかし!!あのヅラがなかったときのことを考えると・・・!!!
「おのっ、おのれぇぇぇ!総員、必ず2人を止めるんだ!
 今日は、今日だけはもう、これ以上奴の好きにさせてはならん!!」
ファンクラブ一同の心の叫びが黄泉の底までも響いたのであろうか。
いつのまにか復活したリーダーが全員に檄を飛ばす。
「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおーーーーーーーーーーっっっ!!」」」」」」」」」」
その声を受けたファンクラブ一同は、
今度はエ○ァンゲ○オンが覚醒したときのような雄叫びで答えた(だから、作品が違うって)。


 ファンクラブ一同の暴走&覚醒により、瀬戸口の負担はさらに強くなる。
九州までやってきた自衛軍の皆さんは、確かに強くて優秀だ。
だけどなんだろう、それだけでは説明できない何かが明らかに奴らのポテンシャルを上げている。
こんなに強いならミノタウロスとタイマンしても余裕で勝てちまうんじゃないか?
・・・ファンクラブ一同のポテンシャルを上げた原因を巨大アフロに阻まれて感じることが出来ない瀬戸口は、
首を捻りながらファンクラブ一同との戦いを繰り広げていく。

「うおお!」「はああ!!」「秘技・流星撮影!!」「もらったーー!!」
「はっ!」「やっ!」「おりゃああ!!」「甘いわ!!」
バシッ!ガツン!ビローーン!!パリーン!
「・・・くっ!」「まだだ!」「ああーーっ!ネガがーー!!」「レンズがーー!!」
「ふなぁっ!!」「しゃあああ!!」「届け、俺の想い!!」「超秘・シャイニングショットーーー!!」
「たあっ!」「きえいっ!」「知るか!」「それはパクリだっ!!」
ガスッ!ストン!バキン!ズコーン!!
「ぐはあ!」「うっ・・・!」「お、俺の想いが・・・。」「な、なぜそれを・・・。」
「スキあり!未央りーーーーーーん!!」
「波ーーーーーーーーーーーーっっっっっ!!!」
チュドォォォォォーーーーーンン!!!!!
「がはっ!!お、俺が子供の頃、いくらがんばっても出来なかった技を・・・なぜ、奴が・・・ぐふっ!」

 ・・・なんだか、どんどん何でもありになってきた展開に作者自身が1番困惑する。
それは、ようはそれだけ瀬戸口にとって不利な状況になってきたということだ。
また始まる戦争のことを考えると、少しでもファンクラブ一同への被害は減らさなければならないが、
正直言ってもう手加減している余裕はない。
それだけファンクラブ一同による暴走&覚醒は厄介なのだ。
だが、どんなにがんばっても暴走モードだろうが覚醒モードだろうがいつかは終わりが来る・・・。
終わらせなくてはならないのだ!!
だが、どうやって・・・。
瀬戸口は敵の攻撃を避けながら必死に策を巡らせた。
すると、
「あの・・・瀬戸口さん。」
「なんだ?」
「河合さんに、一撃で人を眠らせる急所を教えていただいたことがあるんです。
 そこに一撃を加えられた方は5分は目覚めないと聞きます。」
「なるほど・・・。それなら相手に怪我をさせずに無力化出来るな。
 それで、最初に気絶させた奴から5分以内にある程度の人数を削れれば・・・!
 でも、そのためには一瞬でもいいから奴らの気を逸らせれば・・・ん?」
そのとき、群衆の向こう側にももひき姿の大男が見えた。
しめた!奴ならば絶対に・・・!!
好機を見出した瀬戸口は群衆の向こうに向かって叫んだ。
「来須!あれを投げてくれ、頼む!!」
その声に反応したももひき男・・・もとい、5121小隊の寡黙なる歩兵であり、
くすぐり大王のテンションについていけなくなってこっそり抜け出してきた来須銀河が、
「・・・・・・っ!!」
心得たらしく無言で彼愛用の白い帽子のつばを抑えると、
腹巻きの中から常に常備している何かを群衆達の中に投げ込んだ。
瀬戸口はそれを確認すると、
「目と耳を塞げ、壬生屋!!」
壬生屋だけにそう言って肩から下ろすと、来須が何かを投げた方角から背を向けるようにして壬生屋を庇った。
ファンクラブ一同は瀬戸口の突然の行動に頭の血が沸騰しそうになったが、

             ――ピカッ―― 

 一時の感情に負けて油断した!
来須が投げ込んだのは閃光弾だった!!
天辺に登った太陽よりも眩しく辺りを光が包む。
その光の洪水は警戒を怠った全ての兵の目を眩ませ、少し遅れてやってきた爆音が聴覚をおかしくさせた。
視覚と聴覚をやられて平衡感覚を失った兵達はそれでも、
「くそっ!卑怯な真似を・・・!」「このくらいでやられてなるものか!!」
「見えなくても聞こえなくても、俺達には匂いを嗅ぐ力がある!!」「俺達の愛はこんな所で屈しない!!」
戦闘意欲を失わず、残された感覚と気力で2人の位置を特定しようとする。
「そうだ、絶対にあきらめるな!!俺達には、萌えの神様がついてるんだ!!」
くらくらする頭を抑えて、リーダーは仲間を鼓舞する。
しかし、
――スコーン!
「うっ・・・!」
突然飛んできた何かをこめかみに受けて気絶する。
誰にもそれが何かを特定できなかったが、それは来須が日本人最速の時速158キロで投げた閃光弾のピンだった。
リーダーが放った言葉のどこかに、聞き捨てならないワードが含まれていたらしい。
その怒りが彼にこれだけのスピードを出させたのであった。
ちなみに、作者が好きな球団の若手ピッチャーが先日このスピードを出したことは記憶に新しい。
リーダーの身の上に起きたことを知らないファンクラブ一同は、
「リーダーがまた殺られた!!」「くそ!視覚と聴覚を封じての攻撃とは卑劣な!!」
「ちくしょう・・・よくもリーダーを!!」「ぜってぇ許さねぇ!!」「覚えてろよ!!」
と口々に叫んで瀬戸口を探し出そうと躍起になるが、
「・・・うっ!」「急に眠く・・・。」「こんなところで・・・。」「無念・・・!」「ママ・・・。」
その甲斐もなく、急所に一撃を受けて眠りに落ちていく。
数分後には未央りんファンクラブ一同全てが気を失って仲よくおねんねだった。
「ふぅ・・・やれやれ。」
自分たち以外に動くものがいなくなった戦場で、瀬戸口はようやく安堵のため息を吐いた。
そして壊し損ねていた記憶媒体をしらみ潰しに破壊していく。
ふと、そのとき未央りんファンクラブの1人に目を留めると、
「こういうのって、浮気になるのかね?まっ、いいけど。」
と言って、彼の腰のポシェットからはみ出していたそれを引き出し、頂戴するのだった。

 ――それから少しして、バーベキューの準備のために男子学兵が近くを通りがかった頃には、
   未央りんファンクラブ一同の全てが気持ちよさそうに眠り、無数の数の記憶媒体が壊れて転がっていた――


 公園の近くには交番があって――。
その交番は無人であったし、休憩室も完備されているのでここでくすぐり大王の終了まで隠れていることにした。
「大丈夫か壬生屋?」
やっとの思いで気の休まるところに来れた瀬戸口は、気が緩むのを感じながら休憩室の畳の上に座った。
壬生屋は部屋の隅にあった座布団を2枚持ってきて、1つを瀬戸口に渡すと、
「大丈夫ですけど・・・わたくしは自分のことより貴方のことが心配です。」
もう1つを自分用に使った。
瀬戸口は心配顔の壬生屋を安心させるように微笑んで、
「俺なら大丈夫!姫を守るのはナイトの役目だからな、問題ないって。」
と言って、片目をつぶってみせた。
壬生屋はその笑顔を見て、安心するどころか今度は申し訳なさそうな顔になる。
「その・・・あの方達が何であんなことをしたのか理由はよくわかりませんが、
 少なくともわたくしがこんな恰好をしていたのが原因なんですよね・・・。」
自分は普段、学兵に支給される制服ではなく、胴衣に袴姿だ。
周りと浮いていて後ろ指を指されるのは慣れている。
しかし、今日はこんな看護師さんの恰好をしていたがために瀬戸口さんに迷惑をかけてしまった。
自分が好んでこんな恰好したわけではないがひどく申し訳ない。
双方に怪我らしい怪我がなかったからよかったものの、自分が原因で満足に動けなくなる者が出ていてもおかしくなかった。
命を救う、看護師さんの恰好なのに・・・。
すると、
――ふわり。
壬生屋の肩を何か柔らかいものが包んだ。
それは、優しい感触をした桃色のバスタオルだった。
濃いピンクの大きな花の模様が入ったそれは大きなもので、壬生屋の体を優しく包み込む。
驚きながら瀬戸口の顔を見上げると、
「原因はまあ、確かにそうだけどお前さんのせいじゃないから気にしないでいいよ。
 それでも気になるんならさ、それでも被って隠してればいいよ。」
優しく微笑んでいた。
ただただ、壬生屋を安心させたい。
その優しい笑顔に浮かぶのはそれだけだった。
そしてこちらに見惚れている壬生屋の肩を引き寄せて抱き締めると、
「それにさ、お前さんがどんな恰好だって俺には関係ないよ。
 どんな数の敵が相手でも、俺がお前さんを嫁にもらってやる。」
と、耳元で強気に囁いた。
その言葉を聞いた壬生屋は、普段ならば“不潔ですー!”と叫ぶところだが、
「・・・・・・はい。」
今日だけはこんな感じもいいかと思い、黙って瀬戸口に身を寄せた。
そして、
(瀬戸口さんになら、別に看護師さんの恰好を見られてもいいのに・・・。)
と、バスタオルを羽織っているのを残念に思った。


  ――完全なる余談だが。
「お前!俺達には未央りんがいるというのに、何で石津中尉のバスタオルを持っていた!!」
「これは未央りんファンクラブ一同への完全なる裏切りだそ、わかっているのか!?」
「ひっ・・・ひぃぃぃ!!だ、だって、俺の方に飛んできたから・・・つい!!」
「周りにいた者達を蹴散らしてまでか?しらばくれるな!!」
「そうだそうだ!!」「裏切り者には制裁を!!」「見損なったよ、お前のことなんか!!」
「明日から話かけるんじゃねぇぞ!!」「1人の女に愛を貫けないなんざ、男じゃねぇよ!!」
「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!!!ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさいいぃぃぃ!!」
「よさないかお前達!大勢で1人を責めるなんざ、俺達の女神が悲しむだけだ!!」
「「「「「「「「「「リーダー!!!」」」」」」」」」
「リ、リーダー・・・!助けてぇっ・・・!!」
「ああ、わかっている・・・確かに、石津中尉もなかなか可憐だ。我を忘れてしまったのも無理はない。」
「リーダー!!ああぁぁぁぁぁっ!!」
「そ、そんな・・・。」「でも、確かに俺達の女神は・・・。」「女神が悲しむことはしちゃいけねぇな。」
「でも、ケジメはケジメだ。愛は心に決めた1人の女神に注ぐものだからな。
 だから、お前1人で“石津萌たん親衛隊”の皆さんに謝罪してこい。」
「・・・・・・・・・え?」
「だってそうだろう?彼らが賢者の石を使って人柱を5人揃えてでも欲するであろうレアアイテムを奪ったんだぞ?
 親衛隊員ではないお前が。」
「あ、そっか・・・そうだよな。」「確かにあいつらの気持ちを思うと・・・。」
「俺らにしちゃあ、未央りんのナースキャップを奪われたのと同義だからな。」「それが筋ってもんだな・・・。」
「ちょっ!そ、そんな・・・。」
「心配するな。途中まで一緒に行ってやるから。」
「リーダーの言うとおりだぞ。覚悟を決めて行ってこい。」「骨は拾ってやるから。」
「お前のこと、忘れねぇよ。」「生きて帰ったら、また未央りんについて語ろうぜ♪」「いい黄泉かませよ!!」
「い、いやだあ!殺される〜〜〜!!!」
・・・というやりとりがあったことを、5121小隊の誰もが知らなかった。無論、知る必要もない。



〜終〜




ガンパレメニューへ