ある国の話  ―― a Pentacle ――



 ある大陸のあるところに国がありました。
その国には王様と王妃様がいました。
王様は金色の髪と蒼の瞳をしたたくましくて聡明な王様、
王妃様は栗色の髪にダークブラウンの瞳をした美しく慈愛に満ち溢れた王妃様でした。

 ある日王妃様は子供を授かりました。
王様と王妃様はなかなか子宝に恵まれなかったので、王妃様の妊娠には国中の人が喜びました。
世継ぎ問題で騒いでいたお城の中もこれで静かになりました。

 ただ、残念なことに王妃様は体があまり強い方ではありません。
妊娠して数ヵ月後に病気で倒れてしまいました。
この病気は大変重いもので直ちに手術しなければ王妃様は命を落としてしまいます。
しかし、手術をすると病気と一緒にお腹の中の子まで殺してしまうのです。
そのことを医者に言われた王様は迷っていました。
王妃様を取るか、王妃様の中にいる子を取るか迷っていました。
別に王家の血を引く子供が欲しいなら王妃様以外の女の人に産んでもらうことはできます。
でも、王様は王妃様以外の女の人との間に子供を授かることなど考えたくもありませんでした。

 王様が迷っているのを知っていた王妃様はその夜、城の一番高い塔の屋上に王様を呼び出しました。
勝気な性格でもある王妃様は一枚のコインを手のひらに乗せてこう言いました。
「私が手術をするかしないか、このコインで決めましょう?」
王妃様の言葉を聞いて王様は驚き、そして猛反対しました。
大切な人の命が懸かっているのです。
たった一枚のコインなんかで決めていい問題ではありません。
王妃様は王様をなだめて言いました。
「こうでもしないと貴方はいつまでも悩み続けるでしょう?
 私は私のことで貴方に余計な悩みを抱えて欲しくありません。
 ・・・・大丈夫、どんな結果になっても必ず生き残ってみせますから。」
王妃様の目は真っ直ぐ王様を見ています。
王妃様はコインがどんな結果を出しても後悔しないと決意しているのでした。
そんな強い目で見つめられては王様は止めることはできません。
王様が小さく頷くと王妃様はどこか寂しげに微笑んで王様の頬にキスをしました。
「ありがとう、貴方。」
王妃様はコインを乗せた手を握り言いました。
「このコインが表を出したら私は手術をせずにこの子を産みます。
 裏を出したら私はこの子を諦めて手術を受けます。」
王妃様はコインを上へと投げました。
夜空へと高く上がったコインは月の光を弾き、
夜空を彩る星達の一員になったかのように見えました。
夜空の星はすぐに屋上に落ち、小さなコインに戻りました。

  
――コインが出したのは、「表」でした。


 コインが夜空に舞った数ヶ月後、王妃様を子供を産みました。
なんと王妃様のお腹の中にいたのは二人の男の子、つまりそう、双子だったのです。
お城の中は喜びの声で溢れました。
誰もが二人の王子の誕生を祝いました。

 しかし、王子様達が生まれるまでに、王妃様の病気は確実に王妃様の生きる力を奪っていました。
王子様達を産んだ頃には王妃様はすっかり弱りきっていました。

王子様達が生まれて数日後、ついにその日は訪れました。
ベッドに横になり、今にも死んでしまいそうな王妃様の側には
両手に二人の王子様を抱いた王様がいました。
王様は涙ぐみながら王妃様の顔を見ていました。
今何が起きているかわかっているのか、二人の王子様はわんわん泣いていました。
王妃様は息も苦しいのに、それでも王様と二人の王子様に優しく笑いかけながら言いました。
「貴方・・・・まだこの子達の名前、決めてなかったわよね・・・?
 この子達が生まれてからずっと・・・考えてたの、この子達の名前を。
 私がこの子達にしてあげられることはもう、これくらいしかないから・・・・。
 私が付けても・・・いいかしら・・・?」
王様は涙を流しながらゆっくりと頷きました。
「ありがとう、貴方。」
王妃様は王様にお礼を言うと、王妃様が一生懸命考えた二人の王子の名前を王様に言いました。
王様は二人の王子様に素晴らしい名前を付けてくれたことに今思いつく限りの精一杯の言葉で
お礼を言うと、涙を拭かず流したままで、
王妃様が二人の王子様に付けた名前を心の底の底に刻み込むように目を閉じ何度も頷きました。
その様子を、今まで生きてきた中で一番嬉しいという顔で王妃様は見つめていました。
王妃様は二人の王子の名前を呼びながら、
最後の力を振り絞り両腕を上げると二人を抱きこむように、
それぞれの頬に片手ずつ添えて言いました。
「二人とも・・・・幸せに・・・仲良く笑って生きるのよ・・・。
 貴方、この子達のこと・・・よろしく・・お願いします・・・。
 わた、しのぶんも・・・どう・・・か、」
それが、王妃様の最後の言葉になりました。
護ってください―と、
王妃様は言いたかったのですが言うことが出来ずにその命を終えてしまいました。
王様は王妃様の胸にもたれかかり泣き続けました。
王妃様の名前を何度も何度も呼び続けながら泣き続けました。
二人の王子様もいつまでもいつまでも泣き続けました。
城の中からは三人分の泣き声がずっと聞こえ続けました。
泣いている王様と二人の王子様とは反対に王妃様の顔は幸せでいっぱいでした。


――翌日、王様は王妃様が大事にしていた宝石箱の中から、
  あの日夜空に飛ばしたあのコインを見つけました。
  そのコインは両面とも「表」でした。


 それから十七年後、二人の王子様は立派に成長しました。
二人の王子様は二人とも、王様と同じ金色の髪と蒼の瞳で、
王様のたくましさと王妃様の美しさを確実に受け継いでいました。
今、王様はベッドで横になっていました。
もうすぐ王妃様の待つ天国に旅立とうとしているのです。
側には双子の王子様の、兄の方の王子様がいました。
弟の方の王子様は王様がこれから天国に旅立つのが悲しくて、
王様の側にいることができませんでした。
王様は一枚のコインを兄の王子様に渡しました。
あの日夜空に飛ばしたあのコインです。
困ったときに使うことを伝えると、王様は兄の王子様に弟の王子様を呼びに行かせました。
王様は旅立ちを二人の王子様に見送って欲しくなかったのです。
泣き虫な王様だから、愛する王妃様のように優しく笑いながら旅立つ自信がなかったのです。
そして何よりも、二人の王子様が悲しむのを見たくなかったのです。
王様は声には出さずに心の中で二人の王子様にお別れを言って、目を閉じました。
それからずっと、もう二度と目を開くことはありませんでした。
王妃様がコインを投げ、そしてそのコインが決めたことがなんだったのか。
王様が二人の王子様に話すことはとうとうありませんでした。

 王様は気がつくと、花がたくさん咲いた綺麗なところにいました。
目の前には王妃様が立っていました。
王様は王妃様に二人の王子様が悲しむのを見たくなかった自分は弱虫かどうか聞きました。
王妃様は何も言わず、ただ首を横に振りました。
その言葉を聞き、王様は嬉しそうに、そして優しく笑って王妃様を抱きしめました。
王妃様も嬉しそうに、そして優しく笑って王様を抱きしめました。

 ある大陸のあるところ―地図上では北にある大陸の砂漠の中にフィガロという国がありました。
その国には双子の王子様がいます。
兄の王子様の名前はエドガー、弟の王子様の名前はマッシュといいます。
王様が天国に旅立って翌日、新しい王様には兄のエドガーがなりました。




〜Fin〜
 


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