誰よりも魅力的な
出会ってから一か月。
ずっと片想いをしていた瀬戸口君とお付き合いを始めてから一週間目の今日。
仕事が終わって、瀬戸口君と一緒に帰る約束をしていたので校門の噴水前で待っていました。
すると瀬戸口君とかつて交際関係にあった隣の女子校の方から、
「ちょっと!アンタみたいなダサい女が隆之の彼女とか、マジ有り得ないんですけど!!
ノーメイクで巫女さんとか、そんなんで隆之とは釣り合わないってカンジ!!
さっさとアタシの隆之を返してくれる!?」
と言われてしまいました。
瀬戸口君はとても女性の方に人気がありますから、このように妬まれてしまうことはわかっていたのですが、
いざ面と向かって言われてしまうととてもショックで。
それに、その方のおっしゃったことは・・・・。
とにかくわたくしは悔しくて、悲しくて、辛くて、惨めで。
とてもその場にいられなくて、その場から走り去っていってしまいました。
出会ってから一か月。
ずっと気になって仕方がなかった壬生屋と恋人関係になって今日で一週間。
一緒に帰る約束をしていたから、
彼女の仕事が終わるのをプレハブ校舎の屋上で日向ぼっこをして時間を潰してから待ち合わせ場所に向かうと、
ちょっと前までよく一緒に遊んでた隣の女子校の娘から、
「ちょっと!アンタみたいなダサい女が隆之の彼女とか、マジ有り得ないんですけど!!
ノーメイクで巫女さんとか、そんなんで隆之とは釣り合わないってカンジ!!
さっさとアタシの隆之を返してくれる!?」
と、壬生屋がケンカを売られているのを見た。
俺のかつての女性遍歴のせいで壬生屋がこういった厄介事に巻き込まれるのはわかっていた。
わかっていながらそれを未然に防げなかった自分に腹が立つ。
奥歯を噛み鳴らせて拳を握って自分への怒りを押さえながら、彼女を守ろうと噴水に近づくが・・・。
壬生屋は俺の姿に気づかないで、走り去っていってしまった。
それから3日が経って――。
その日から壬生屋が俺と口を利いてくれない。
いや、それどころか、目すらもまともに合わせてくれない。
あの後、俺は壬生屋に追いついて“あんな言葉、気にするな”“俺は壬生屋が好きなんだ”と言って、
涙を流す彼女をなだめようとしたが、
“ごめんなさい・・・1人にしてください・・・。”と言って、
テレポートセルを使ってどこかに行ってしまった。
こういうときにテレパスセルを持っているのだったら、彼女がどこに行ったか知れたのだが・・・。
普段のサボり癖がこんなところで俺の足を引っ張る。
訓練不足と発言力不足で持っていなかった。
仕方がないから、一晩泣いたらスッキリして調子が戻っているように祈りながら俺は1人で帰った。
しかし、事態は好転するどころかこの始末。
せっかく恋人同士になれたのにこのままでは嫌だ。
それどころか、あの不器用娘は“自分は貴方にとってふさわしくないから別れる”とか言い出しかねない。
そうならないためには、どうしても壬生屋と話をしなくては。
今日こそは、必ず壬生屋を捕まえる。
そう決意する。
したのだが・・・、
「壬生屋、ちょっと話があるんだが。」
「ごめんなさい、先生に呼ばれているのです。」
「壬生屋、昼休みに屋上で・・・、」
「舞さんに呼ばれているので失礼します。」
「壬生屋、放課後に、」
「おつかいがあるので無理です。」
「壬生屋、あの・・・、」
「急いでいるので。」
「壬生、」
「ではまた明日。」
・・・とまあ、こんな感じで見事にはぐらかされる。
はぐらかされても追いかければいいものだが、テレポートされてしまうので無理だ。
捕まえて、本当にこちらの言葉から逃げられないように捕まえてからでなくては話が始まらない。
何の当てもないが彼女との日々を取り返すために、とにかく彼女を探さなくては。
今は放課後でもう学校にはいないかもしれないが、俺は校内を虱潰しに当たることした。
そのころ、尚敬高校1階の女子トイレにて――。
「・・・ふぅ、行ってくださいましたか。」
わたくしはトイレの入り口からすぐそこの廊下にいた瀬戸口君が遠ざかるのを確認していました。
どんなに探そうとも瀬戸口君が殿方である以上、女子トイレに進入するのは不可能です。
ここならば、瀬戸口君に邪魔されずに訓練が出来る。
――そう、『魅力』の訓練が。
3日前、女子校の方に言われた言葉はわたくしがずっと気にしていたことでした。
わたくしは小さい頃から武道に明け暮れていてお化粧などしたことがない。
ずっと胴着で通してきたから服装のことなどまるでわからない。
女性らしく着飾る――そんなこと、一度だってしたことがなかった。
それでも、そんなわたくしでも瀬戸口君が選んでくれたのが嬉しかった。
でも、わたくしが魅力の訓練もしないままで女としての磨きがかかっていないままでは、
隣にいる瀬戸口君に不快な思いをさせてしまうかもしれない。
ずっと一緒にいられるように、精進しなくてはっ・・・!!
瀬戸口君に相応しい女になるまでは、それまでは、それまでは瀬戸口君に合わせる顔がないのです!
「3日前に会った女子校の方・・・瀬戸口君とかつて付き合いがあったということは、
瀬戸口君はあの方のようなお化粧や服装が好みのはず・・・。」
そう言ってわたくしはまず鏡を見て髪を梳かすと、
商店街で売っていた女子高生向けのファッション雑誌を手に取りました。