そして翌日になって――。
「壬生屋!」
未だに壬生屋とまともに話が出来ていない瀬戸口は今日も壬生屋を追いかけている。
ただ、目に見えてわかる変化が1つだけある。
それは、何故かいつも逃げる先が2組の教室で、どういうわけか2組の生徒達は自分を教室の中に入れてくれないのだ。
朝から休み時間の度に2組教室に逃げ込まれ、昼休みも同様だったので、
ついに痺れを切らして強行突破を図った。
しかし、整備班の中でも武闘派であるヨーコと田代に阻まれてしまった。
だったら放課後にこそ・・・と思ったが、
今度は2組教室へは行かずにそのままテレポートでどこかへ行ってしまった。
どこへ行ったかはわからないが、行き先が校内ならばまだチャンスはある!
と、思って校内を駆け回っていると・・・、
「あっ・・・!」
見つけた。
原と一緒に校門の外へ出ようとしている後姿を見つけたのだ。
しかし、この組み合わせが仕事のために整備テントではなく放課後の校外へ向かうのが珍しいと思いながら、
壬生屋の元へ駆け寄ろうとすると、
「止まれ瀬戸口。」
突然目の前に巨体が現れて、瀬戸口の行く手を遮る。
その巨体と声の持ち主はというと、
「・・・どいてくれないか、若宮。」
5121小隊の戦車随伴歩兵にして原素子親衛隊――若宮だった。
「一体何のつもりだ?原さん絡みか・・・?」
瀬戸口は尋ねたが、
「さあ・・・どうだろうな。」
若宮は答えなかった。
・・・まあ、答えをのんびり聞いている暇もないが。
とにかく、さっさと振り切って壬生屋を追いかけたい。
だがどうやってこの歴戦のベテラン戦士を振り切るものかと考えていると・・・、
「まあまあ、ここは落ち着きましょうよ、瀬戸口君。」
瀬戸口の背後から別の人物の声がした。
瀬戸口が振り向くと・・・、
「・・・どういうことですか、善行さん。」
そこには、5121司令善行忠孝がいた。
どういうことだか知らないが、なんでまた恋人を追いかけるのを邪魔されなければならないんだ?
瀬戸口が苛立ちながら睨みつけると、
「立ち話もなんですからこちらへ・・・。」
と言って踵を返し、司令室へと歩き出した。


 「何なんですか、一体!!」
上司を前にしているのにも関わらず、上司よりも先に司令室の椅子にどかっ!と座りながら瀬戸口が尋ねる。
一刻も早く壬生屋を追いかけたいのに・・・。
そう思って、何度もお暇させていただこうとしたが、その度に若宮に阻止された。
その若宮は今も自分が逃げ出さないようにと、司令室のドアの前に立って出口を固めている。
善行は瀬戸口の向かいに座って、
「壬生屋さんのことなんですがね・・・しばらく原さんに任せていただけませんか?」
彼らしく何の前置きもなく話を切り出してきた。
その改まった口調に瀬戸口は苛立ちを幾分か和らげて、
「・・・何でまた?こちらは4日、恋人と会話すら出来てないんすけど?」
それでも性急に理由を聞き出す。
すると善行は苦笑しながら、
「残念ながら、原さんにお願いされてましてね。詳しい事情は言えないんですよ。」
理由の説明をやんわりと拒否する。
「・・・・・・。」
それを聞いて、僅かだが瀬戸口が無言で眉間に皺を寄せる。
「いえ、悪いことが起きているわけではないですからとにかく落ちついて。」
対して善行は、苛立ちを無言で伝えてくる瀬戸口を宥める。
「こちらで説明出来る範囲で説明すると、壬生屋さんには悩みがあって、それを原さんが聞いたそうです。
 それで、その悩みを解決するために、しばらく原さんと行動を共にさせて欲しいそうです。
 その際に瀬戸口君に接触されては困るそうなので、我々に協力を要請されたのですよ。
 2組・・・特に協力的なのは女性陣ですが・・・そちらの皆さんも同じく。
 1組の皆さんからは今日は特に動きは見られませんでしたが、こちらも協力者ですね。
 もちろん私や若宮君も同じくです。
 ・・・4日前のことから照らし合わせて、壬生屋さんの悩み、何故原さんと行動しているか、
 聡明な貴方ならもう検討は付いているでしょう?」
善行から逆に尋ね返される。
善行の言うとおり、瀬戸口は壬生屋が何のために原と行動しているのかわかった。
苛立ちが体から消え失せて・・・残ったのは、
「ええ。・・・でも、俺はそんなことしなくても、そのままでもあいつのことが・・・。」
壬生屋をそこまで悩ませてしまったことへの申し訳なさと寂しさだった。
俺って、本当に壬生屋への配慮が足りてなかったんだな・・・と思う。
「元気を出しなさい。そんなに気にすることではないそうですよ、原さんが言うには。」
善行は、すっかり気を落としてしまった元・自称愛の伝道師を元気づけるように言う。
「我々男はそう思っても、女性としてはそれで納得出来るものではないそうですよ。
 だから、瀬戸口君が必要以上に気を病むことなないし、壬生屋さんが納得いくまでやらせた方がいい、と。
 ならばここは、事が終わるまで、壬生屋さんを信じて待つのが君の仕事ではないですか?」
「待つ・・・か。・・・待つのはあんまり得意ではないんですけどね。」
「それでも・・・壬生屋さんのことを想うのなら無理を強いてはいけませんね。」
善行に諭されて、瀬戸口は小さくため息を吐くと、
「・・・しょうがない。
 数日くらい、がんばって待ってみます。」
壬生屋が原の元から戻ってくるのを待つことに決めた。
寂しいし、4日もろくに話せていなかったので不安もあるけれどそれが壬生屋のためならば。
「それでよろしい。
 壬生屋さんに会っていただいても問題ないと原さんが判断したら連絡があるので、
 それまで辛抱してくださいね。」
待つことを決めた瀬戸口を善行は暖かく見守りながら言った。



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