その部屋には、2つの大きなカプセルのようなベッドがある。
そのベッドにはいずれもたくさんのケーブルに繋がれていて、
部屋中に響く機械音は、起動していることを喜んでいるかのように大きく唸る。
そのベッドのうち1つに舞が腰をかけ備え付けの端末を操作し、
もう一方ではののみが頭を完全に覆うヘルメットのような装置を被って横たわっている。
「ののみ、調子はどうだ?」
舞が尋ねるとののみはそのままの姿勢で口を開いた。
「うん、大丈夫なのよ。」
「よし。ならば調整完了だ。ののみ、“戻ってきて”いいぞ。」
「は〜い。」
ののみが元気に返事をすると、被っていた装置に点滅していたライトが消えた。
装置を外して起き上がる。
「ふぁ〜。あっ、ゆうちゃんだ〜。」
ののみは伸びをすると、舞の傍らで待機していた赤松に気づいて手を振った。
赤松はそれに応えて手を振り返す。
慣れてきたようだ。
「それにしても、芝村の技術はすごいですね……こんなものまで作ってしまうなんて。」
ほんの少し前の同じ場所。
舞はののみと赤松を伴って、この部屋に入ってきた。
そこには2つの大きなカプセルのようなベッドを取り囲むように、多くの機材が置かれていた。
それら全てがケーブルで繋げられ、起動し演算を行っていた。
「うわ……すっげぇ〜。」
「ふぇぇ…かっこいいのよ〜。」
赤松とののみが部屋に入るなりため息を吐いた。
「感心するのは結構だが、我々にはやるべきことがある。いいか?」
舞は部屋中を見回す2人に言って、近くにあったブリーフィング用のデスクに腰掛けた。
別に怒っているわけではない。
2人はすぐさま舞の近くに集まった。
「それで舞ちゃん。ののみは何をすればいいの?」
ののみをデスクに肘をかけて舞を見上げる。
舞は微笑んで説明し始める。
「順を追って説明しよう。ののみ、確かに未央の目から別の声が聞こえたのだよな?」
「うん。怖い声だったの。」
「そうか。ということは未央の左目に何者かの介入があり、それによって未央は左目から幻獣を生み出している。」
「操られている……ってことですか?」
「そうなるな。そこでこの装置だ。
この装置はシンパシー能力者の能力を調整し高めることで、対象の精神に別の人間の精神を介入させることが可能なのだ。」
「え……?」
赤松の頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。
「えっと、ののみが怖い声の人の心がいる所を探して、舞ちゃんがそこに行って怖い声の人にめーって言うんだって。」
「はい?」
赤松の頭上のクエスチョンマークが増える。
「ののみが未央を操っている者の精神を探し出して繋ぎ、私がその者の精神に侵入し、葬る。
同時に未央の左目を破壊し、その者とのリンクを切る。
そうすれば再生が止まるかもしれないし、少なくともその者による介入を断ち切ることができる。」
ここでやっと、赤松は“なるほど”という顔をした。
「そうか、それなら……!でも、もし失敗したら……。」
「もし返り討ちに遭ったら私の精神は破壊され、ののみの精神は端末の中に閉じ込められることになる。
この世界に私以上のハッカーがいない以上、この方法で解決することは永久に不可能になるな。」
舞はここで言葉を切って、ののみの目を見つめる。
「ののみ、聞いたとおりリスクは高い。それでもやるか?」
「もちろんなの!未央ちゃんを助けられるならののみ、なんでもやる!!」
ののみは笑顔で即答した。
その笑顔と言葉を舞は心から喜び、大きくうなづいた。
「よし。ならば早速行動に移すぞ!」
ここで時間は戻る。
「あとはあいつだけだな……。」
舞は端末の操作を終えると同時に呟いた。
「これより休息を取り、来るべき時を待つとしよう。」