「・・・・ん?」
気がつくと、未央はベッドにもたれかかるようにして眠っていた。
窓から差し込む光は眩しくて、時間的には昼ごろだと思われる。
あれ、わたくしはどうしたんだろう?
目の前のベッドに眠っているのは圭吾で・・・。
そうだ、圭吾の具合は・・・!
未央は昨夜と変わらずうつ伏せのまま眠っている圭吾の顔色を窺う。
「・・・よかった。呼吸も落ち着いてるし、熱も下がってる。」
あの薬が効いたのだろう。本当に良かった。
「あら?」
気がつくと、未央は足元に落ちていた毛布を踏んでいた。
この毛布はどこから出てきたのだろう?
圭吾にかけていたものではないから、自分が眠っているときに誰かがかけてくれたのか?
未央が考えていると、
「未央ちゃん、圭吾の具合はどうだい?」
ノックの音がして、その後に圭吾の母が部屋に入ってきた。
「熱も下がりましたし、うなされることもなくなりました。
 えと・・・せ、瀬戸口さんが持ってきてくださった薬がよく効いたようです。」
圭吾の容態を回復させた薬は隆之が持ってきたものだ。
しかし言い争いをした手前、素直に感謝するのが躊躇われた。
「そう・・・!よかったねぇ、圭吾・・・。」
未央の言葉を聞き、圭吾の母は安堵の笑みを浮かべて圭吾の頬を撫でた。
未央もまたそんな圭吾の母の様子を見て、ほっと胸を撫で下ろす。
圭吾の母はひとしきり息子の安らかな寝顔を見やると、
「未央ちゃん、花婿探しで大変だって言うのに、この子の面倒見てくれてありがとうねぇ・・・。
 もういいから、おうちへ戻って休んでおいで。」
ずっと息子の面倒を見ててくれた優しき少女に礼と労いの言葉を送った。
すると未央は首を左右に振る。
「いいえ、わたくしなら大丈夫です。
 つい先程まで、眠ってしまっていましたし・・・。
 あっ、毛布かけてくださってありがとうございました!」
そして毛布をかけてくれたことに対する礼を言った。
そうだ、きっと圭吾の母が夜中に様子を見に来たときにかけてくれたのだろう。
しかし、圭吾の母はきょとんとして、
「毛布・・・何のことだい?」
逆に尋ね返してきた。
「え・・・?」
尋ね返されて、未央が逆にきょとんとする。
「てっきり、おば様がかけてくださったのかと思ったのですけど・・・。」
「さあねぇ・・・私が今朝様子を見に来たときには、もうかかってたんだけど・・・。
 あ、でも、ちょうど夜明けごろに昨日薬を届けてくれた人――瀬戸口さんが来てね、
 “水のリングを探しに出る前に、もう1度圭吾のお見舞いをしたい”ってことでわざわざ来てくれたから部屋に通したのよ。
 そのときにかけてくれたんじゃないかしら?」
「ええっ!瀬戸口さんが・・・!」
またお見舞いに来て、横で寝込んでいる自分に毛布をかけてくれたなんて・・・。
昨夜激しく口論したばかりだというのに、何でわざわざ。
(まさか、わたくしが倒れていないか見に来られたのでは・・・?)
だが、今それを考えても仕方が無かった。
答えを知っている唯一の人物は、もう街を出発してしまったのだ。
(せめて、わたくしが目を覚ますまで旅立たないでくれればよかったのに・・・。)
あんなに怒鳴ってまで自分を心配してくれて、眠る自分に毛布をかけて黙って行ってしまった隆之。
苛立ちと申し訳なさと何故か寂しさを感じ、今はもう何も彼に伝えることが出来ない自分を持て余して―。
未央は窓の外に広がる太陽に照らされた街を眺めた。
遠くに行ってしまった彼がいるはずがないのに、眺めてしまった。


 船は順調に清流を上っている。
隆之が壬生屋家当主から借りた船は隆之と仲間モンスター達が乗ってやっとの広さであったが、川を上るには十分だ。
舵を壬生屋家から派遣された船乗りの男に任せて、隆之は船べりに肘をついて頬杖をつきながら流れる景色を見ていた。
「ご主人。」
と、そこに仲間モンスターの1人であるピエールが、相棒のスラフィーネに乗りながらやってきた。
「何だい、ピエール。」
隆之は姿勢を変えずに、目だけをピエールに向ける。
「よかったのでござるか?」
「ん?何が?」
ピエールにしては言葉が抽象的で歯切れが悪い。
ピエールが何が言いたいのかわからず、隆之が尋ね返す。
尋ね返されてピエールは一拍迷ったが、
「未央お嬢さんに何も言わずに出てきてしまってよかったのでござるか?」
隆之が誤解しないようにしっかりと尋ねた。
「あー・・・そうだな・・・。」
そこで隆之は、ピエールが言いづらそうだった理由に察しが着いた。
ピエールが隆之の答えを待っていると、
「ま・・・大丈夫だろ、うん。」
ぼうっと遠くを見つめたままの、何とも気の入っていない声で答えた。
主人がこんな様子では、
「ならいいでござるが・・・。」
従者である自分はそれ以上追及出来ない。
隆之は今はこんな気の抜けた様子であるが、
昨夜圭吾の見舞いから戻ったときの隆之は話すのも躊躇われるほどピリピリしていて、
気が落ち着くまで誰も話しかけられなかった。
おそらく未央とまたケンカでもしたのだろうと全員がなんとなく察してはいたが、いざ尋ねるには勇気が要った。
しかも今回はかなり言い争ったらしい。
今は太陽が天辺に昇る前で本当ならサラボナを出発するのはもう少し後の時間にする予定だったのだが、
壬生屋邸に留まって未央と顔を合わせるのが嫌だったらしく、わざわざ早朝に街を出るように変更したのだ。
それでも朝になっても戻らない未央を心配する気持ちはあったらしく、遠坂家へ顔を出してから出発したのだが・・・。
(この調子で、結婚など出来るのでござろうか・・・。)
主人が何をしたいのか、何を考えているのかわからない。
もうすぐ妻帯者となるので色々思うところがあるのだろが、こんなに気の抜けた主人を見るのは初めてだった。
ピエールは景色を眺めたままの主人を見て内心でため息を吐くと、
少し離れたところで床に寝そべりながら隆之を見つめている虎鉄に目をやった。
虎鉄の今の主人は壬生屋家の娘、未央だ。
いくら自分が10年前に隆之と共に暮らしていたからとはいえ、
虎鉄や自分のような忠誠心の強いモンスターは主人の命でもない限り主人の側から離れないものである。
しかし虎鉄は、遠坂家から戻った隆之の後について船に乗り込んできた。
未央の命なのかと尋ねてみたが、そうではなく自分の独断で、
【隆之が未央の相手にふさわしいか、見定めたい。】
ということらしい。
ならば納得がいくのだが、未央の側を離れてまでそうしようと思うようなことがやはり昨夜あったということだろうか?
何はともあれ、虎鉄も隆之と同様昨夜のことは何も語らない。
ゴシップ好きのマーリンやクックルは何度も聞きたがっていたが、話してくれない限りは仕方なかろう。
それに自分は、自らが定めた主人にただついて行くだけ。
主人が選ぶ未来を信じよう。
改めて決意を固めたピエールの耳に、
「・・・そろそろ到着する。」
という船乗りの大きくはないがよく通る声が届いた。
振り向くと筋骨隆々の船乗りが白い帽子を目深に被り直しているところだった。
今は迷ったままの主人を乗せた船が、次の冒険の舞台へとたどり着く。


 清らかな流れの上流で。
川の水量を調節する水門の横にその村はあった。
山奥の実にのどかな村で、あまりに小規模な村なので名前すらない。
ただ、天然の温泉が湧き出ているのと自然が豊かなこともあり、病気療養にはうってつけらしい。
村人に尋ねると、水門を管理している家の主人もまた病気療養のために7年前に越してきたという。
確かに村に越してきてから主人の調子はよくなったのだが、奥さんが5年前に病気により他界。
以来、娘と2人で暮らしているという。
隆之は船に仲間達を残し、水門を開けてもらうために村の1番奥にある家へと向かっていると、
「・・・・ん?」
途中にある墓地で女性が1人、熱心に祈っているのを見かけた。
見覚えがあるのだが、誰なのかはっきり思い出せない。
(お祈りの邪魔しちゃ迷惑だな。)
隆之はそう思って、思い出すのをやめると再び歩を進めた。


 目的の家を訪ねると、
「お・・・おじさん?」
「隆之・・・隆之なのか?」
隆之は思いがけない再会に驚いた。
隆之は目を丸くして驚き、そして懐かしさに顔を綻ばせると居間でソファーに腰掛けている人物の側に寄った。
「そうです、隆之です!サンタローズの!」
「ああ、やっぱりそうか!!」
隆之が近寄ってくるのと同時にその人物も立ち上がり、腕を広げて隆之と抱き合う。
「私を覚えているか?お前の父さんの友人で、隣町のアルカパで宿をやっていた、」
「そして希望の、俺の幼馴染みのお父さん――ああっ、やっぱりおじさんだ間違いない!!」
隆之と希望の父は体を離して、お互いの顔を見る。
「サンタローズがあんなことになってずっと心配していたよ。
 随分苦労したようだな、目を見ればわかる・・・すっかり大人の顔になって。」
「おじさんこそ、昔と比べて随分細くなりましたね。
 ・・・あの、来る途中で村の人から聞いたんですけど、おばさんのこと・・・。」
「ああ、私よりずっと丈夫だったくせに、あるとき風邪をひいたかと思ったら、
 それで体が弱くなったらしく別の病気にかかってあっという間にな・・・。
 私が先立つとばかり思っていたのにわからないものだな・・・。
 希望は妻の墓参りに行っているがすぐに戻る。まあ、とりあえず座ってくれ。」
「はい、失礼します・・・ん?」
希望の父がソファーではなくテーブルの席に着き、勧められた隆之がその向かいの席に腰掛けようとしたときだった。
玄関の扉が開く音がして、隆之がそちらに目を向けると――、
「た、たかちゃん・・・?」
「の、ののみ・・・?」
思いがけず、10年前の呼び方でお互いを呼ぶ。
そこには隆之の幼馴染み――東原希望が立っていた。
栗色の髪を耳の上に2つに結わいてリボンで留め、緑色のノースリーブのワンピースにオレンジのマントで合わせている。
背もスラリと伸びて体つきも女性特有のものになってすっかり大人びていたが、
「たかちゃん・・・って、もうそんな呼び方子供っぽいよね。お久しぶり、隆之。会いたかったわ!」
そう言って実に嬉しそうに微笑む顔は、10年経っても変わらない、太陽のように眩しくて明るい笑顔だった。


 「プックル久しぶり!すっごく大きくなっちゃってビックリよ!!」
「がう〜・・・ゴロゴロ・・・。」
希望は満面の笑顔で虎鉄のふかふかな毛皮に抱きついた。
抱きつかれた虎鉄も“地獄の殺し屋”と呼ばれるキラーパンサーには似つかわしくないほど甘えきった表情と声になる。
無理もない。
10年前、希望は隆之と共に近所の悪ガキから自分を救ってくれた恩人であり友達なのだ。
「希望、今のプックルの主人は壬生屋のお嬢さんで、名前も虎鉄に変わったんだよ。」
「ふ〜ん。でも、こんなにかっこよくなったんだから、虎鉄の方が似合ってるよね。ね〜、虎鉄♪」
「ガウッ♪」
隆之は事情を説明すると、希望の父は水門の開くことをすぐに了承してくれた。
しかし、結局その日は東原家に泊まることになった。
10年ぶりの再会に話が弾み、語りつくすには一晩かかりそうなのだ。
水のリング探しは別に無理に急ぐ必要は無いので、一晩くらい遅らせても文句は言われまい。
仲間モンスターもどうぞ一緒にということなので、船の番を船乗りに任せて全員でやってきた。
仲間達を東原親子に紹介すると、1匹1匹に「よろしくね!」と言って微笑んでくれる。
その誰にも分け隔てなく気さくに話せる明るさは、10年前と変わっていなくて嬉しい。
「そうだ隆之。昔私があげたリボン持ってる?」
「ん?ああ。」
「ちょっと貸してくれる?」
希望は突然何かを思いついたらしい。
隆之が腰元の小物入れをがさごそとやっていると、希望は1度奥に引っ込んだ。
小物入れからリボンを取り出したときにちょうど戻ってきて、その手には隆之が持っているのと同じリボンが握られている。
「最近知ったことなんだけど、このリボンには特殊な魔力が込められているらしくてね。
 魔力を持ったモンスターがつけると人の言葉をしゃべれるようになるらしいの(my設定です)。
 ちょっとごめんね、クックル。」
そう言うと希望は屈んでクックルの首もとにリボンを付けてやった。すると・・・、
『んー・・・あ〜・・・あれ?マジ?私、人の言葉しゃべってる!?』
「うおっ!本当だ!?クックル、クックルの声なんだよな?」
隆之を始め、全員が驚いた。
思わず真偽のほどを確かめてしまう。
『ええ、私の声よ。自分でもびっくりだわよ〜。』
「呪文を使えるくらいの魔力があるモンスターにしか効かないんだけどね。
 だから、虎鉄には効かないの。とっても残念だけど。」
「でも十分すごいリボンだよ、希望。
 クックルってこんなしゃべり方だったんだな・・・。
 ・・・どれ、こっちのリボンを誰かに・・・よし、スラフィーネに付けてみよう。
 確か、スライムナイトのスライムもそのくらいの魔力は持ってたよな・・・。
 ピエール、ちょっと降りてくれ。」
「わかったでござる。」
隆之はピエールにスラフィーネから降りてもらうと、頭頂部のとんがりの部分にリボンを付けた。
『隆之様、ピエールのパートナーのスラフィーネです。いつもお世話になっています。』
スラフィーネは隆之にお辞儀をして言った。
その思ってた以上に丁寧な物腰に、隆之は恐縮してしまう。
「あ、いや、俺こそいつも2人にはお世話になって・・・。」
『いえ、良いのです。貴方様はピエールが選んだ主なのですから。
 ・・・それはそうと隆之様?』
「ん?」
『こんな所で油を売っていて良いのですか。
 天空の盾を手に入れてお母様を魔界から救い出すのが貴方様の目的でしょう?』
「え、えと・・・。」
初めて知ったスラフィーネの手厳しさに、隆之はたじたじになる。
今度はそれを見かねたクックルが、
『ちょっと!隆之は10年ぶりに幼馴染みに会えたのよ!?1日くらいゆっくり語り合ったっていいじゃない!』
と言って、人の言葉のままスラフィーネに食って掛かった。
『まあ、確かにお気持ちはわかりますが、
 結婚相手がいる殿方が他の女性の家で一夜を共にするのはどうかと思います。』
「いや、あの、一夜を共にって大げさな・・・。」
そのワードを聞いて、希望も慌てたように言葉を紡ぐ。
『そーよ、大げさよぉ!
 結婚後ならまだしも、まだ式すらあげてないのよ?逆に言えば今のうちじゃない!』
クックルが希望の代わりに反撃する。
『前とか後とかが問題ではないのです。未央お嬢様に対する礼儀の問題です。』
それに対し、スラフィーネは少しも退くこともなく応じる。
『何よそれ!あんた、人間語になってもその堅っ苦しい言い方なのね。聞いてるこっちが疲れてくるわ!』
『別に。それは貴女の好みの問題であって、私のせいではありません。』
『あーもう!ああ言えばこう言う!!』
そして言い争いはどんどんヒートアップしてしまった。
それにしても、モンスターの2匹が人間の言葉で言い争うのはなんだか不思議な光景だ。
「ちょっ、ちょっと大丈夫なの?」
希望が2匹の言い争いを呆然と見守りながら隆之に尋ねる。
隆之もまた呆気に取られていて、
「さ、さあ・・・。
 いつも2匹で何か話してるから、てっきり仲が良いのかと思ってたんだけど・・・。」
どうしたものかと困っている。
するといつのまにか隆之の隣にマーリンがやってきて、
「大丈夫じゃよ。このお嬢ちゃん方のじゃれ合いはいつものことじゃから。そのうち止めてくれるわい。」
と、目の前の出来事が何でもないことのように言う。
「そうは言っても・・・。」
そう言って隆之は仲間達を振り返る。
マーリンはのほほんと微笑んだままだし、ドラきちとスラりんもいつも通りお気楽な感じだ。
3匹とも落ち着いていて、何もしようとしてくれないのでどうしたものかと思い始めると、
「こらこら、お主達。そろそろやめにするでござる。」
やんわりとした他人を落ち着かせるような声がして、
『うっ・・・。ピ、ピエールが言うなら・・・。』
『そ、そうですね。ここは他人様の家だということを忘れていました・・・。』
その声を聞いたクックルとスラフィーネはケンカをやめた。
ケンカを止めた声の持ち主はその口調で丸わかり。
スライムナイト(上担当)のピエールだ。
「クックル、ご主人の気持ちを汲んでくれるのは嬉しいでござるが、
 希望殿や未央お嬢さんのことも考えないと・・・。
 少し騒ぎ過ぎでござるよ。」
『はぁい・・・わかったわよ。』
「スラフィーネ、ご主人の礼儀を正してくれるのは良いことでござるが、
 まぁ・・・せっかくの再会なのだから少々目をつぶって差し上げても良いのではと思うでござる。
 なぁに、ご主人が何も問題を起こさなければいいだけの話でござる。
 で、ござるな?ご主人?」
「えっ・・・?あ、当たり前だろ!希望は俺にとって姉みたいなもんなんだから!なぁ希望?」
ピエールに水を向けられた隆之は慌てて身の潔白を訴える。
隣にいた希望にも同意を求めると、
「え、ええそうよ!私は昔も今も変わらず、隆之のお姉さん代わりよ!」
と言って、戸惑いのためか震えたような声で答えた。
ピエールは2人の答えに満足そうに頷くと、
「・・・と、いうことでござる。
 これで許して差し上げようでござるよ、スラフィーネ。」
『はい・・・それでしたら納得出来ます。』
「そうかそうか、2匹ともわかってくれたでござるか!」
ピエールはさっきと打って変わって随分と素直なクックルとスラフィーネの答えを聞いて、うんうんと頷く。
そして、
「これにて一件落着!!」
と言って、この場をビシッと収めたのであった。

 
 「・・・どうじゃ、しっかり解決したじゃろ?」
クックルとスラフィーネから希望のリボンを外し、今度はスラりんとドラきちに付けてみた後、
先程の2匹とは違いこちらは予想通りに陽気で少しおバカな性格であった2匹が騒いでいたのと見ていると、
マーリンが傍らに立って話しかけてきた。
「ああ。すごいな、ピエールは。他人の上に立つ才能があるんじゃないか?
 いつも何かと皆を引っ張ってってくれてるしな。」
隆之がそう答えると、
「ふっふっふっふ・・・まあ、それもあるんじゃがな・・・。」
マーリンが何やら不気味な笑いを浮かべながら言った。
その様子に怪訝に思っていると、マーリンが耳元に顔を寄せて内緒話をしてくる。
「クックルとスラフィーネはの・・・ピエールに惚れとるんじゃよ・・・。」
「ええっ!!」
「しっ!ご主人、声が大きいわい!」
「あ、ごめん・・・。」
マーリンは主人を咎めると、誰かに聞かれてやしないかと周囲を見回す。
幸いにも誰かに聞かれている様子は無かった。
それに安堵すると、マーリンは内緒話の続きをする。
「での、ピエールはそのことに気づいておらんのじゃよ。」
「えっ?2匹に好かれてるのに?」
「そうなんじゃよ!ピエールの奴、侍道とやらにどっぷりでの。
 強き侍になることにしか興味がないんじゃよ。
 はてさて、この三角関係がどうなることやら、楽しみじゃのう〜♪
 ご主人、決着を見届けるまでモンスターじいさんのところにわしを預けないよう、頼むぞい・・・ほっほっほ。」
するとマーリンは自分がしたい話だけをすると、腰を痛めているためかソファへと歩きだした。
離れていく背中を見て、隆之は今の自分がどれほど彼の楽しみの素になっているのだろうと思うと、ちょっと複雑になった。


 クックルとスラフィーネがピエールに気があるという事実。
そのことについて影でこそこそと楽しんでいる者がいるということに、彼女達は気づいていなかった。
しかしそれは、あるものを見ていたからである。
「・・・・・・。」
2匹の視線の先。
そこでは希望が何だか悲しそうな瞳で隆之を見ていた。
そういえばさっき、自分で自分のことを“隆之の姉だ!”と言い切ってからずっと静かで元気がない。
何故だか気になった2匹が、それぞれの場所で希望の表情を伺ってみるとこの様子だったのだ。
そのことに隆之も他のモンスター達も気づいていない。
気づいてしまったのは、2匹が希望と同じ女性だからだろうか・・・?
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
普段は仲の悪い2匹であるが、このときは目配せし合って胸に湧き上がった複雑な想いを共有するのだった。



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