これは、隆之と未央が合流した後の仲間モンスター達の会話である。

虎鉄【すまないな、行動を共にしてもらって。】
ピエール【構わないでござるよ。お嬢さんにもしものことがあったら、我々は困ってしまうし。】
マーリン【旅は道連れ、世は情け。旅は大勢の方が楽しいしの。】
スラりん【うんうんっ♪未央ちゃん、ボクらみたいなモンスターと一緒でも怖がらないから好きだよっ!】
虎鉄【まあ、ずっと俺みたいなキラーパンサーと一緒だったからな。】
クックル【キラーパンサーとスライムを比べちゃうとね。
     それにしても、お互い頑固な主人を持つと苦労するわねぇ。】
ドラきち【そうそう。オイラ達は人間語が喋れないからいいけど、
     話せるピエールやマーリンはご主人の“お守り役”だもんね〜!!】
ピエール【ドラきち、それを言うなら“治め役”でござる。お守りではご主人に失礼でござるよ。】
クックル【まあ、間違ってない感は否めないけど。】
虎鉄【それにしても・・・未央はこれからどうなってしまうんだろうか。】
クックル【あー・・・確かに、好きでもない相手と結婚させられるのはね・・・。】
スラりん【ボクだったら、オスになって逃げるけどねー♪】
ピエール【そりゃあ、スライム族は環境と気分で性別を変えられるけれども・・・。】
虎鉄【未央は人間だから、それは無理だな・・・。】
マーリン【まぁ、わしらのご主人がリングを2つ手に入れた場合は、わしらのご主人と未央ちゃんが結婚するわけじゃのぅ。】
ドラきち【え〜・・・。2人とも、仲が悪いのに?さっきからケンカしながら歩いてるよ。】
クックル【最初は「何でついてくるんですか!?」「お前さんに何かあったら、天空の盾が手に入らんだろが!」
     で、今は、「何ですかそのなってない型は!?」「別にいいだろ!それでもお前さんの倍は倒しとるわ!」。
     次から次へと・・・よくケンカのネタが尽きないわね〜。】
マーリン【・・・これは、“ケンカするほど仲が良い”ってやつかの?】
ドラきち【え〜っ!?ケンカするのに仲がいいの〜!?それって何かおかしくない〜?】
クックル【いや、恋は千差万別よぉ♪
     ケンカして、お互いにぶつかり合うことから生まれる愛もあるのよ〜♪】
ピエール【ふむ・・・確かにそう考えると、全くお嬢さんと会話をしていない他の候補者よりかは、
     うちのご主人の方が気心が知れて良いかもしれん・・・。】
マーリン【よし!それじゃあ、ご主人と未央ちゃんの結婚が吉か凶か賭けをしようかの!】
虎鉄【え?あの・・・、まだ隆之がリングを手に入れたわけじゃ。
   というか、俺は未央がこれからどうなるかを聞いてもらってたんだが、】
クックル【おっもしろそ〜〜♪♪
     じゃああたしは、上手く行く方に魔物のエサ3つ!】
ドラきち【おいらはダメな方に2つ!やっぱり、結婚は仲良くないと!】
ピエール【う〜ん・・・ご主人は、もっと大人しいご婦人の方が好みな気がするが・・・。
     よし、吉に5つでござる!!】
クックル【あら〜、随分賭けるわね〜。負けたらアンタ、5日間ご飯抜きよ?】
ピエール【賭けるときは一気に勝負に出るのが侍道でござる!!】
虎鉄【あの、他人の主人で賭けは・・・、】
スラりん【ボクは・・・う〜ん・・・どっちにしようかな。
     未央ちゃん、ボク達と一緒に旅に出たら、仲良くしてくれるかな?】
クックル【大丈夫でしょ。あの子、人間以外の生き物にも優しそうよ。】
スラりん【やったぁ!じゃあボク、上手く行く方に8こ〜〜!!】
クックル【8って!?・・・アンタ、一応は負けたときのこと考えなさいよ・・・。】
スラりん【?ダメなの?】
クックル【いや、別にいいけど・・・。】
マーリン【ふむ・・・これで結果が吉だった場合、凶側に賭けたドラきちが不利じゃな。
     よし、わしは凶に10じゃ!!】
虎鉄以外【おおっ!!】
マーリン【まあ、負けたところでわしは少食だし。いざとなったら薬草で飢えを満たすわい!】
ピエール【うむ。全員出揃ったでござるな。
     然れば、この賭けの立会人は虎鉄ということで。】
虎鉄【こ、こらっ!俺を巻き込むなっ!!】

 そのとき、彼らの前方で、
「こらお前ら!戦闘に参加しろ!!」
呪文を唱える体勢に入っているホースデビルへと剣を構えながら、隆之が仲間モンスターに呼びかけた。
「虎鉄!貴方もおしゃべりしていないで、戦ってください!!」
炎の戦士が吹きかけてきた炎の息を避け、未央が虎鉄を叱咤する。

仲間モンスター全員【はーい!】
クックル【それじゃあ、アンタ達!賭けのこと、忘れないでよ!】
マーリン【お主こそ。負けたからといって、しらばっくれることのないようにな〜。】
ドラきち【大丈夫だよ〜、そのために立会人の虎鉄がいるんだから〜。】
虎鉄【だから・・・俺を巻き込むなって。】


 そしてここから通常の、人間語主体の表現に戻る。
無事にモンスター達の群れを蹴散らしながら、死の火山の麓にある洞窟の中を突き進んでいく隆之一行と未央と虎鉄。
マザーヨーコから免許皆伝をもらったという腕前は伊達ではないらしく、未央の戦闘能力はなかなかのものである。
身のこなしに無駄がなく、狙いを過たずにモーニングスターの鉄球をヒットさせている。
だが、やはりこのモンスターの出現率では、虎鉄と2人だけでは進めなかったであろう。
当人達もそれを自覚しているので、隆之一行と行動を共にしていることに関しての文句はもう言わない。
それに対し隆之一行の方はというと、人数は揃っているのだが、
「ピキー・・・。」
「ピ・・・キ。」
「大丈夫か、2匹とも?」
隆之は馬車の中でぐったりしているスライム2匹に声をかけた。
前者がスラりんで、
「苦しくはないか・・・スラフィーネ。」
後者がスライムナイトピエールの相棒、スライムのスラフィーネである(あのスライムナイトが乗ってる黄緑の)。
この洞窟、火山から流れ出た溶岩やそれに寄って発生している火の海で、まるでかまどの中に入ったかのような暑さである。 このような所だと、例え健康な人間でも長時間いたら脱水症状や熱中症などで確実に調子を崩してしまう。
特にゲル状の体を持つスライム族の2匹は、洞窟内の熱気で溶けそうになっていた。
暑さで体の形状をまともに保つことが出来ず、動くのもままならない状態なので、馬車内で休ませてある。
魔法の聖水で冷やした薬草を張って熱を冷まそうとしているがあまり効き目はない。
マーリンが付きっきりで2匹の看病をしているので、
実際の戦力は隆之、ドラきち、クックル、そして・・・、
「ピエール、スラフィーネと一緒じゃなくても戦えるのか?」
「確かに機動性もジャンプ力も弱くなりますが、拙者の剣術で何とかしてみせるでござる。」
スライムに乗っていないスライムナイトのピエールだけである。
「そうか。なら頼んだぜ、ピエール。」
頼もしく答えたピエールだったが、隆之は視線を合わせるためにいつもの2倍は首を下に傾ける。
理由は極簡単、スラフィーネから降りたピエールは隆之の腰くらいまでしか身長がないからである!
スライムナイトやメタルライダーといった種族は、スライムに乗るために小柄な体格になるよう進化したのだという。
ピエール・・・身長差が大人と子供になってるよ・・・。
しかし視界や間合いが変わっていつもと同じ戦いが出来なくても自ら進んで戦闘に参加しようとする姿勢は、
実に誇り高くて侍らしい。
なので、隆之はピエールの心意気を尊重し、戦闘から外すようなことはしないのである。
とまあ、こんな具合で、結果論とはいえ隆之一行の戦力低下と未央&虎鉄の戦力不足を、
行動を共にすることで上手く補え合っているのだ。
そのためであろうか、
「大丈夫ですか?スラりんちゃんとスラフィーネさん・・・。」
未央が心配そうに馬車の中を覗き込んだ。虎鉄もそれに習う。
隆之と未央のケンカが減ることはなかったが、未央と虎鉄は隆之の仲間モンスターと心を通わせていた。
「ふむ・・・流石にここまで体がとろけていては戦えないじゃろうが・・・まあ、大丈夫じゃろ。
 こうして冷やしておけばこれ以上悪化することはないし、
 強力な火炎呪文で一気に蒸発させられない限りにはちゃんと体を維持出来るじゃろ。」
尋ねられたマーリンもまた未央と虎鉄に心を許しており、穏やかな口調で答えた。
「そうですか・・・。」
それを聞いた未央はひとまず安心をし、
「でも、何かあったら言ってくださいね。魔力が戻り次第、ベホイミをかけますから。」
と言って笑いかけた。
その言葉を聞いて、マーリンは不思議そうな目をする。
「戻り次第・・・て、まだ戻ってなかったのかの?」
「ええ。魔法の聖水、持ってこなかったんです・・・。」
未央は気まずそうに肩をすくめた。
「そうかいの・・・ご主人から貰ったらどうかの?」
「いえ、わたくしは・・・、」
「いいのいいの!こんなところに魔法の聖水1つ持ってこない、おじょーさんが悪いの!」
せっかくのマーリンの提案であったが、横から隆之が割り込んで未央の答えを封じる。
割り込まれた未央は、当然むっとして言い返す。
「当たり前です!貴方なんかに、そこまでしていただく義理はありませんから!!」
「ほほー、そりゃ強気なことで。当然、自分等の傷は自分等でなんとかしろよ?」
「わかっております!!」
「ならいいや。せいぜい、薬草を無駄にしないように気をつけるんだな。」
「貴方こそ、準備が整っているからといって油断なさらないように。そうなったら助けませんから。」
「なっ・・・!可愛くねー・・・。言われなくても、お前さんの助けなんぞいらないよ!」
やっぱり、この2人が話すとすぐケンカになってしまうのだった。
立ち止まってお互いを罵り合う2人を見て、仲間モンスター達はため息を漏らす。
ケンカの回数はもう2桁台だ。
(もういい加減にしてよ・・・。)
と、仲間モンスター達全員が思ったそのとき、
「お〜い!瀬戸口く〜ん!!」
どこかで聞き覚えのある声が聞こえた。
「・・・?」
その声の主を思い出そうと隆之が首を捻っていると、
「いけない!虎鉄っ!」
「ガウッ!」
聞こえてきた声に驚いた未央は、慌てて虎鉄の背を馬車に押入れると、自分もその中に入った。
「あっ、おい!勝手に人の馬車に・・・、」
隆之が勝手に馬車に入った未央に文句を言おうとしたが、
「瀬戸口君!」
先程の声の主に呼び止められてしまった。
さっきより声が近くに聞こえて背後に気配がするから、声の主は隆之に駆け寄って来たのだろう。
隆之が振り返ると、
「あ、あんたは確か・・・。」
「遠坂です。壬生屋邸で会った、貴方と同じ未央の花婿候補です。」
そこには、未央の幼なじみで花婿候補の遠坂圭吾が立っていた。
サラボナの道具屋の話によると、彼は厳しい試練だと聞いても諦めずに、死の火山を目指したと言っていた。
その証言通り、彼もこの洞窟にやって来ていた。
(そうか・・・それで慌てて隠れたってわけだ。)
未央が慌てて馬車の中に入った理由に合点がいった。
そして、
(お嬢さんをこいつに押し付けて、一緒に街まで連れて帰ってもらおうかな・・・。)
と、そんなことが頭を過ぎったが、
(・・・こんなひ弱そうなやつに、お嬢さんを任せるのは無理か・・・。)
結局また街から抜け出されるのがオチだろうと思い、諦める。
圭吾は熱気で額に流れる汗を拭ってから、隆之に話し掛ける。
「やっぱり、貴方も来たんですね。
 貴方のような旅慣れてお強そうな方でしたら、相手にとって不足はありません。
 ですが、炎のリングは必ず僕が手に入れてみせます!」
圭吾は隆之の目を真っ直ぐに見つめながら宣言した。
自分よりほんの少しだけ高い位置から強い視線が流れてくる。
圭吾は隆之よりも華奢な体格なので威圧されたとしても怖いとは感じないが、
それでも、その真摯な眼差しからは目を逸らせなかった。
「まあ、お手柔らかに。
 この洞窟に出てくるモンスターは、旅慣れた俺でもちょっと手強い。
 炎のリングにたどり着くまでにはかなり苦戦しそうだよ。」
隆之は圭吾の気合で緊張した雰囲気をほぐすかのように、困ったように笑いながら返す。
「おや、貴方もですか?それは意外ですね。」
隆之の笑顔につられ、圭吾は肩から力を抜いた。
そうしていると、このような危険な場所で戦うよりもどこか綺麗なところで楽器を奏でている方が似合いそうである。
「俺には仲間達がいるから、旅もなんとか続けられているんだよ。
 あんたは大丈夫か?
 仲間もいないし、武器の扱いもあんまり得意ではなさそうだけど?」
隆之に尋ね返され、今度は圭吾が苦笑を浮かべる。
「おっしゃるとおり、僕は暴力を振るうのは苦手です。
 しかし、これでも僕はルラフェンの萌先生のところで魔法の勉強をしていたことがあるんです。」
「あー、あの子か!ルラフェンに寄ったときに会ったよ。」
「萌先生に!?お元気でしたか?」
共通の知り合いがいるのを知ったからだろうか?
先程より随分親しげな声音になる。
「ああ、かなり世話になったよ。」
「そうですか・・・息災で何よりです。
 僕には、萌先生から教わった魔法があるからそれで戦います。
 見ててください、《ヒャド》!!」
圭吾は近くにあった岩に氷魔法をかけた。
しかし、

    ジュッ。

 岩は凍ることなく、ただ水分が蒸発した音だけが聞こえた。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
圭吾も隆之も、馬車の外にいた仲間モンスターも無言になり、
「・・・・・・。」
馬車の中からも何とも言えない静けさが伝わってきた。
しばらく、誰も何も言わない(言えない?)数秒の間が流れて、
「あ、ははは・・・。」
それを打ち消したのはその雰囲気を作り出した張本人の乾いた笑い声だった。
「ま、まあ、教わっていた当時に比べれば魔力も少し落ちてしまっていますが・・・。
 嫌ですね、ブランクって。
 でも、なんとかしてみせますし、なんとかします!
 それでは瀬戸口君、僕は先を急ぎますので、これで!!」
圭吾は一方的に早口でまくし立てると、フリーズ状態の隆之の両手を握り、
上下にぶんぶん振ってこれまた一方的な握手をすると、
まるでその場から逃げるかのように走り去ってしまった。
圭吾が洞窟の角を曲がって姿が見えなくなってようやく、
「あいつ、あんなんで大丈夫か・・・?」
それだけをぼそりと呟いた。



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