KISSから始まるチェイスゲーム!?



 だだだだだだだ、ガラッ!
はた迷惑なほど大きい足音が響いたかと思ったら、教室の引き戸が勢いよく開けられた。
「壬生屋!いるか!!」
「舞!ここに居るの!?」
時刻は昼休み。
和気あいあいと昼食を取るクラスメートの事など露ほどにも気にせず、
瀬戸口と速水は教室中に聞こえるよう、大声で探し人の名を呼んだ。
「なんやねん。人がのんびり昼飯食うとる時に。」
戸の近くの席で他の生徒と昼食を取っていた加藤が、
若干迷惑そうに訊ねた。
「ああ加藤、ちょうどいい所に!」
「ちょうどいい所も何も、ここはうちの席やで。」
「それは知ってるよ!それよりも、舞見なかった?」
「壬生屋も。どこ行ったかわかるか?」
瀬戸口と速水は必死な様子で加藤に詰め寄る。
「ああもう、うっとうしいわ!!」
2人に言い寄られた加藤は2人を追い払うように叫んだ。
「知らんわ!ここには来てないで。他をあたりぃ!!」
叫んだ後、更なる追撃を防ぐかのように威嚇する。
その様子を見て2人は、
「ふむ・・・そうか、来てないか・・・。」
「いないなら仕方ないね・・・。ありがと、加藤さん。」
それ以上の追求を諦め、来たときと同様のやかましい足音を響かせながら
隣りの教室へ走っていった。
「・・・ったく。」
加藤は立ち上がると、2人が開けっ放しにしていった引き戸を閉める。
閉める際に、先ほどの2人が辺りにいないかをしっかりと確認する。
「・・・大丈夫。ここにはもう、来ぃひんみたいやで。」
そして加藤は隣りに座って昼食を食べていた石津と
自らが腰掛けていた椅子に向かって言った。
「「ふぅ〜〜・・・。」」
すると、石津の口と椅子の下からため息が漏れた。
それからなんと、石津は自らの髪を引っ張り落とし、
加藤の椅子の下からは人影が現れた。
髪を引っ張り落とした石津は、
「やれやれ・・・。あやつという奴は全く・・・。」
カツラを被って石津に変装していた舞で、
「よかった・・・なんとか誤魔化せて。」
加藤の椅子の下から現れたのは、加藤の鞄や舞が座っている椅子でカモフラージュし、
加藤の椅子の下に丸まって隠れていた壬生屋だった。
「まさか変装して堂々と座ってるとは思わんし、
 椅子の下に隠れられるとも思ってないやろからな。
 ・・・にしてもどしたん?
 急に“かくまってくれ”やなんて・・・。
 速水は舞の、瀬戸口は未央りんのカレシやろ?
 逃げる必要ないやん?」
加藤は自分の席に戻り、舞と壬生屋に尋ねた。
舞と壬生屋の親友である加藤は、親身になって相談に乗るつもりでいる。
「え、ええ・・・あの・・・。」
「そ、それはだな・・・。」
だが、2人ともなかなか話したがらない。
その2人のもじもじしている様子に、加藤はひらめいて、
「はっは〜ん・・・。2人とも、さては相手に何かされたなぁ〜。」
と、含み笑いで言う。
すると、
「「なっ!!」」
2人は同時に顔を赤らめ、言葉に詰まった。
その様子を見て、加藤はニヤリと笑い、
「ふ〜ん、図星かいな〜。
 ええなぁ、うちもなっちゃんとそこまで仲良うなりたいわぁ。
 で、どこまで行ったん?
 親友のうちに聞かせて欲しいなぁ。」
と、2人に言い募る。
「べ、べつに!」
「な、何にもされてなんていません!!」
問い詰められている2人は必死になって否定する。
しかし、否定しているうちに相手にされたという“何か”を思い出したのか。
さらに顔を赤く染める。
(んもう、ダメやでぇ2人とも。分かりやすすぎるわ〜。)
無論、それを見逃さない加藤なのだが、
(でも、これ以上いぢめるのは流石に可愛そやな♪)
と思い、追求の手を収めた。
「ま、そこまで言うんやったら、これ以上は何も聞かへんよ。
 あいつら手強そうやけど、がんばって逃げるんやで。」
「祭さん・・・。」
「ありがとう。その友情に感謝を。」
壬生屋と舞は加藤の友情に打たれ、感謝の言葉を述べる。
―と、同時に。
「舞、見つけた!」
「壬生屋、やっぱりここにいたか!!」
今度は廊下側の窓が開かれた。
しまった!昼休み中にもう来ることはないと思い、警戒を怠っていた。
速水と瀬戸口は窓のサッシに足をかけて教室内に乱入してきた。
「うわぁっ!!」
「きゃああ!!」
速水が舞の、瀬戸口が壬生屋の腕を取ろうとするが間一髪、
2人は逃れ、反対側の窓の所まで一気に駆けた。
そして、教室内の生徒と騒ぎを聞きつけてやってきた隣りのクラスの生徒が見つめる中、
壬生屋と舞は互いの相手を睨み、距離を取って様子を見る。
相手が近付くに合わせて、こちらも遠ざかり相手にそれ以上近寄らせない。
「舞、今日は一体どうしたの?何で僕が近づくと逃げるの?」
「・・・別に、逃げてなどいない。」
「壬生屋!何で朝からまともに顔を合わせようとしてくれないんだよ!」
「それは、その・・・言えません。」
速水と瀬戸口は相手に問いかけたが、どうにも答えらしい答えが返ってこない。
2人が言うには、朝からこんな調子だったらしい。
それなら先ほどうるさい音を立てて走っていたのにも納得がいく。
答えをくれないのに焦りを募らせている2人は、
反撃を覚悟で相手に突撃を仕掛けようと決意し、一歩踏み出した。
しかし、
「こらあああ!お前ら、とっくにチャイム鳴ってんぞ!さっさと席着けぇ!!」
マシンガンを乱射しながら教室に入ってきた本田に阻まれてしまう。
アベック撲滅を公言している本田だ。
本田の目の前で感動の再会(注・追っている側の野郎2人にとっては)をし、
マシンガンによって余韻に浸れないのは嫌だ。
それに授業を壊すなど、マジメっ娘な恋人は絶対に嫌がる。
何が原因でこうなっているかは知らないが、これ以上嫌われる原因を作ってなるものか。
(なら、授業が終わったと同時に・・・。)
(相手を抑えればいいだけのこと・・・。)
と、追う側の2人は心に決め、大人しくそれぞれの席着いた。

 そして。
―キーン、コーン、カーン、コーン・・・。
授業終了のチャイムが鳴った。
((今だ!!!!))
チャイムが聞こえると同時に、速水と瀬戸口は恋人を捕らえるべく、
相手の席に狙いをつけた。
だがしかし、相手の方が一枚上手だった!!
舞と壬生屋はとっくに席から立ち上がっていて、
2人とも教室の中央へ向け机とクラスメートを飛び越えていっている最中だった。
速水と瀬戸口が行動を開始したのが
“キーン、コーン、カーン、コーン”の“カ”の音だったとすると、
舞と壬生屋が席から腰を浮かせたのは“キ”の音辺り。
つまり、時計の針が授業終了時刻を刺すと同時に動き出したのだ。
ほんのちょっとの差だが、これがかなり大きい。
舞が差し出した手を壬生屋が取ると、
なんとテレポートセルを起動し、テレポートを始めた。
2人の姿が光に包まれる。
まずい!
この光が消えたときには狙いの相手はここにはいない。
「舞ぃぃぃぃぃぃぃっっ!!!」
「壬生屋ぁーーーーっ!!!」
こうなったらもう、走っている暇さえない。
速水と瀬戸口は恋人を捕らえるべく、相手に飛び掛る。
着地のことなど構わず、ただ両腕を相手へと必死に伸ばす。
しかし!!
―シュン・・・ッ。
宙に体を投げ出したのとほぼ同時に、テレポートが完了。
舞と壬生屋は教室から消え、どこか違う場所へ行ってしまった。
後に残されたのは・・・、
「「いいいいいっっ!?」」
互いへと両手を突き出し、顔から突っ込んでいく速水と瀬戸口。
両足は床から離れきっているため、方向転換は厳しいし、
何より距離が近付きすぎている。
まずい、まず過ぎる!!
このままでは“チュー”は必至!!!
ちょっと待って!ここは瀬戸口×速水(もしかしたら逆か?)サイトじゃないのよっ!!
だが!!!!
「・・・・よっ。」
速水は首の向きを変え、床を見る。
ナレーションのパニックぶりを何ともせず冷静に。
速水が首の向きを変えたことにより・・・、
「がっっ!!!」
速水の頭頂部が瀬戸口の顔面にクリーンヒットした。
「※#☆●ΘΔ♪〒〜〜〜〜〜!!!!」
顔を抑え、言葉にならない悲鳴を上げながら床でもがき苦しむ。
加害者である速水は爽やかの笑顔で、
「ふぅ・・・危ない危ない。良かった〜、僕の唇を守れて♪」
と言った。
頭突きを受けた瀬戸口はそれどころではないが。
しかし、話がボーイズラブ化するのを防いでくれた。
そこは礼を言おう。
瀬戸口ならその程度の怪我、唾をつけときゃ治るだろう。鬼だし。
しかし、結局、舞と壬生屋は次の授業が始まるまで姿を現さなかった。

 そして次の授業の終わりやホームルームの前にも同じような事が起こり、今は放課後。
速水・瀬戸口組は仕事を放っぽりだし、舞・壬生屋組を追いかけていた。
言わずともわかるとは思うが、舞・壬生屋組も“仕事なんて無視”である。
戦時中なのにのん気なことだ。
しかし、今の彼等にとっては戦時中だろうが嵐が直撃しようが、
背後で岩田が腰を回しながら踊っていようが関係ない。
あらゆる全てを投げ出してでも相手を捕まえたいのだ。
広い女子校校舎内を粗方駆けずり回った速水と瀬戸口は、
1度止まって相手の行き先を推理する。
「舞・・・。一体、どこに・・・。」
「壬生屋・・・あーもう!どこだよ畜生!!」
2人同時に似たようなことを呟く。
ここでふと速水が疑問を口にする。
「そういえば瀬戸口。何で朝からずっと僕と一緒に走り回ってるのさ?」
訊ねられた瀬戸口は、イライラが残った顔で“その問いに答える時間が勿体無い”と
思っていそうな顔で返す。
「しょうがないだろ?壬生屋が姫さんと一緒の方向に逃げるんだから。」
「何で逃げてるの?何か壬生屋さんに嫌われるようなことしたの?」
「いいや!それは断じて無い!!」
瀬戸口は速水に掴みかからんばかりの勢いで返す。
「いいか、よく聞けよ!
 あれは昨日の事だ。
 夕方頃、珍しく早めに仕事が終わったアイツを送っていくとき、
 新市街前のあの長い横断歩道を渡っている途中で信号が変わり始めた。
 走っても渡りきれない距離だったから、俺達は中央分離帯に上がって待つことにした。
 そのときの夕暮れが見事でさぁ・・・。
 アイツを綺麗なオレンジに染めてたんだよ。
 それについ、引き寄せられて気がついたらアイツの唇にキスしてた。
 壬生屋とキスしたの初めてだったからついつい離すのが勿体無くなって、
 信号が変わるまでずっとそうしてた。アイツも抵抗しなかったし。
 でも、信号が変わって離れた瞬間、“不潔ですーー!!”って言いながら走ってっちまってな。
 その後追いかけたけど、アイツが家の門をくぐるのが先だった。
 多目的結晶で話し掛けてもだんまりだったし、玄関前で騒ぎ立てたら近所迷惑になってしまう。
 だからまた今日学校で話してみようと思ったけど、あんな感じで・・・。」
「ふ〜ん。なるほどねぇ。」
「つーか、お前らはどうしたんだよ。
 いつも片時も離れない。常に2人一緒の3番機コンビが、朝からまともに会話も出来てないなんて。
 お前さんこそ姫さんに嫌われるようなことしたんじゃないのか?」
「ううん!絶対にあり得ないよ!僕は舞が大好きだから!!」
速水も先ほどの瀬戸口に負けないくらいの勢いで語り返す。
「あれは昨日の放課後。
 生徒会連合に用があるっていう舞についていったんだ。
 ラッシュ時間だったせいもあって乗った電車が満員でね、
 僕は舞が押しつぶされたりチカンにいたずらされないように抱きしめてたんだ。
 そしたらね、そしたらだよ!
 普段は抱きしめても滅多に自分から素直にくっついてこない舞が、
 なんの躊躇もなしに僕に擦り寄って、上着の胸のところを掴んだんだ!
 そんな舞が可愛くて仕方なくて、ついこう、キスしちゃったんだ。
 つい夢中になっちゃって、電車が次の駅に着くまで。
 それで周りの人が降りて電車が空いたら、“このうつけ者が!!”
 って思いっきり殴られちゃってね。
 油断してたから避け損ねて床に尻餅ついちゃって、
 顔を上げたら舞が電車から出ててドアが閉まった後だった。
 その後、舞が降りた駅に戻ったんだけど舞はいなくて。
 多目的結晶に連絡したけど応答がなかったし、
 これから生徒会連合で会議だから何時に終わるかわからないって言ってたから、
 しょうがないから今日また学校で話そうと思ってたんだけど、逃げられちゃって。」
「なるほどねぇ。お前さんも大変だなぁ。」
瀬戸口が顎に手を当てながら相槌を打つ。
「大好きな相手と話せず逃げられっぱなしは辛いよね、お互い。」
速水も同様に深く頷く。
そして、
「でも、」
「なんでまた、」
速水と瀬戸口は同時に疑問を口にした。
「「なんでこんなに避けられてるんだろう?」」
・・・このすっとこどっこい×2。

「な、なんだと!お主もそんな大変な目に遭ったというのか!?」
「舞さんこそ!心中、お察し致します!!」
こちら、別の場所の舞・壬生屋組。
速水・瀬戸口組と同じく、互いが逃げている事情を語った。
「全く、厚志ときたら私がああいったことに慣れていないのを知っているくせに。
 あ、あんな満員電車の中で、あんなこと・・・。
 周囲の目に晒される私のことも考えろ!!」
「わたくしなんて、ファーストキスだったのに。
 ずっと、大事に取って置いたのに、あ、あんな人目に付くところでいきなりなんて・・・。
 あの方は女性の気持ち、ちっともわかっていません!!」
そして自らの胸中を吠えた。
吠えた後、しばらく無言の間があって、そして、
「未央!!」
「舞さん!!」
互いの想いを共感した2人は友情を確かめ合うように、“ひしっ”と抱きしめあった。
「悪いのは殿方2人です。あの人達が謝るまで、絶対に逃げ通してみせましょうね!!」
「無論だ。今度ばかりは向こう側に非を認めさせなければ気が治まらん!!」
それから2人は、しばらく余韻に浸ってから体を離した。
「しかし何だな。朝から走り回っていたから、流石に疲れたな。」
「授業中に眠るわけにもいきませんですしね。」
「ふむ・・・。どこかで身を隠して休むか。良い隠れ場所がある。ついて来い。」
と言うと、舞は手を差し出し、壬生屋はその手を取った。
そして、テレポートし、この場所から跡形もなく一瞬で消え去った。

 「あーあ、全然見つからないねぇ・・・どこ行ったんだろ。」
女子校の校舎からプレハブ校舎、ハンガー内をくまなく探したが、
どこにもターゲットの姿はなかった。
途方に暮れた速水と瀬戸口は女子校の3階の廊下から、ボーッと外を眺める。
「こんなに探してもいないってことは、もう学校の外に出ちまったのかもな・・・。」
「やだ。それは困る。いくらなんでも探しようがないじゃないか!」
「俺に怒るなよ。困り果ててるのはお互い様なんだから・・・ん?」
瀬戸口がため息をつきながらなんとなく視線を下に下げた時だった。
「どうしたの、瀬戸口?」
「今・・・風なんて吹いてなかったのに、あそこの木が動いたんだ。」
「木?」
瀬戸口は速水にも分かるように、件の木を指し示す。
それは先日花を散らし葉が生い茂った、一本の大きな桜の木だった。
校庭の隅、倉庫とクラブハウスに囲まれるように立っていて、
1階に降りて見たらちょうど死角に入る。
こうして高い所から見ない限り、そこに木があるとは気づけない。
「枝が太くて登りやすい。
 それに何より、あそこなら建物で隠されるからサボりには持って来いなんだ。」
「なるほど。
 それにこういう高い所から見ても、葉が生い茂ってる木に登れば完全に姿を消せる・・・ああっ!」
速水にしては珍しく、大きな声で驚きを表す。
「どうした?」
「い、今・・・赤い袴が見えた・・・。」
「何っ!?」
短く叫んだ瀬戸口は木に視線を戻す。
すると、赤い袴は見えなかったが、先ほどのように木は風もないのに揺れている。
「ビンゴ・・・だな。」
それを見た瀬戸口が、勝利を確信したと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべながら言った。
「せっかくのチャンスだからね。慎重に行こう。」
そして速水も同じく不敵に微笑みながら歩き出した。

 ざっ・・・!
速水・瀬戸口組は問題の木の前へとやってきた。
なるほど。
見上げてみれば舞・壬生屋組が逃げ疲れたせいか、実に気持ち良さそうに寝入っている。
((か、かわいい・・・///))
互いのターゲットの寝顔に見惚れる速水・瀬戸口組。
ついついそのまま時が流れそうになるのを頭を振って止める。
速水・瀬戸口組は無言でアイコンタクトを取り、同時に首を縦に振る。
突入の合図だ。
“突入”といっても相手を起こすわけにはいかないから“抜き足差し足”で。
慎重にして静かに、ゆっくりと確実にターゲットに近付く。
あともう少しで木の幹に触れられる。
そんなときだった。
「・・・っくしゅん・・・。」
そのときに流れたそよ風が壬生屋の体を少し冷やし、
それが元で壬生屋は小さなくしゃみをした。
“まさか起きるのでは!”という緊張が速水・瀬戸口組に走り、
彼等は息までも止めて様子を窺う。
壬生屋は・・・、
「ん・・・すぅ・・・すぅ・・・。」
・・・起きなかった。
((はぁ〜。))
内心で大きなため息を吐き、安心した速水・瀬戸口組。
しかし、そこに罠があった!!
――パキッ。
安心し、うっかり油断してしまった瀬戸口の足が動き、
たまたまそこに、絶好の位置に落ちていた枝を踏み折ってしまった。
「・・・あ。」
折った本人の口から間抜けな声が漏れる。
その声が漏れた直後に、
「「わああああっっ!!!」」
すっかり目が覚めてしまった舞・壬生屋組の悲鳴があがった。
「せ、瀬戸口君!いつの間にこんな所に・・・!」
「何故ここがわかった、厚志!!」
舞・壬生屋組は厚志・瀬戸口組を警戒するように木にしっかりと掴まる。
「くそっ!こうなったらさっさと登って捕まえるしかない!」
「うん!わかってる!!」
ターゲットの覚醒に伴い、余裕がなくなった速水・瀬戸口組は特攻作戦に切り替えた。
すごいスピードで木を登る。
しかし、
――シュン・・・!
それでも敵わず、舞・壬生屋組はテレポートし、木から姿を消した。
後には必死になって木に登っていた美少年2人が残される。
速水・瀬戸口組はこのまたとないチャンスを逃してしまったのである。
「っちくしょう、もう少しだったのに!」
無念の声を上げながら瀬戸口は木から降りた。
「まぁた探さないとな・・・。どこに行ったと思うはや・・・みぃ!?」
瀬戸口は、何も言わずに無言で木を降りた速水を振り向いた。
振り向いたが、そこには、
「ん?なぁに瀬戸口君♪」
満面の笑顔で後ろに黒いオーラを背負って立つ速水厚志がいた。
果てしなく不気味。
果てしなく脅威・・・。
「何か言った?」
「いいえ!何も・・・すみませんでした!!」
速水はただ質問を返しただけだったのだが、思わず謝ってしまった。
今の速水にはこれだけの力がある・・・。
「ううん、いいよ。その代わり、今度ヘマやらかしたらその自慢の外ハネを内ハネにするから。」
「は、はいぃ!!」
「うん。わかればよろしい。・・・あれ?」
瀬戸口に脅し・・・いや、微笑み返した速水は、瀬戸口の背後に何か光るものを見つけた。
拾い上げてみるとそれは、
「あーー!!これ、舞のテレパスセルだぁ〜♪」
「なんだって?」
そう、舞の私物、テレパスセルである。
テレパスセル・・・これさえあればターゲットがどこにいるか、瞬時に調べられる。
「きっと、僕らから逃げようとして慌てて落としていったんだ!
 もう、舞のお茶目さん♪」
「やった・・・!これで壬生屋を見つけられる!」
「・・・え。僕が拾ったんだけど?」
「・・・そこをなんとか。お願いしますって。壬生屋も一緒にいるんだからさ。」
「瀬戸口はさっき、ドジ踏んだし・・・。」
「それは、ほら謝るからさあ・・・。」
「別に僕が瀬戸口と一緒に行く必要はないじゃん。」
「そこはほら、ね・・・。」
―瀬戸口は、すっかりへそを曲げてしまった速水の説得に30分ほど時間を取られました。

 速水・瀬戸口組、活動再開。
舞のテレパスセルゲット!!
ならば相手は手中に収まったも同然だ!
ゴールは近いぞ、がんぱれ少年達〜〜!!
・・・の、はずだったのだが・・・。
「舞〜〜〜!待ってぇぇぇぇ!!」
「壬生屋ぁぁぁ、行くな、行くんじゃなぁぁぁい!!」
叫びも空しく逃げ去る舞・壬生屋組。
そう、ターゲットの手にはまだ、テレポートセルが残っているのだ!
例え相手の位置がわかっていても、捕まえる前にテレポートされたのでは話にならない。
誰もいない廊下に向かって、涙目になりながら手を伸ばす速水&瀬戸口。
そのままガクリと頭を垂れる。
「舞・・・。僕達、もう一生も会えないのかな・・・。」
速水がぽつりとつぶやく。
「馬鹿なことを言うなよ。まだ終わっちゃいないさ。」
瀬戸口は自らにも言い聞かせるように言った。
「それにしても妙だ。
 いくらテレポートパスを持っていたって、テレポートされる前に捕まえれば済む問題だ。
 テレパスセルはこちらにあって、あちらにはない。
 だから、相手の背後に回って捕獲すればいい。
 現に俺達はそう動いていたはずだ・・・なのに、なんでまた逃げられる。」
瀬戸口は冷静に状況を分析、そして打開策を検討しようとする。
「あ・・・!そういえば!!」
瀬戸口の言葉に何を思いついたのか、速水は突然上着を脱ぎ、バサバサと振り回し始めた。
すると、
「・・・やっぱり。」
振り回していた上着から、何か小さな物がいくらか落ちてきた。
それは・・・、
「発信機と盗聴器。まったくもう、舞ったら〜〜♪」
そう、舞が速水に仕掛けている発信機と盗聴器だった。
「舞ったら、って・・・なんでそこでそんな嬉しそうな顔になるんだよ?」
瀬戸口が怪訝そうな顔で尋ねる。
「えー?だってこれは、舞が僕を愛している証拠じゃない〜?」
速水はぽややんな笑顔であっさりと返した。
「・・・さいで。で、その発信機やら盗聴器やらはそれで全部か?」
「さあ?上着だけでこんなに出て来るんだもん。
 ズボンやワイシャツにもいっぱい付いてるんじゃないかな?
 取り外し可能な所に付いているって保障は無いし。
 今日くれたお弁当の中に混ざっている可能性も低くは無いよ。」
(おいおい・・・。いくらなんでもそこまでやるかぁ?)
と、内心で思ったが今は動じている場合ではない。
瀬戸口は努めて冷静な表情になる。
「・・・ということは、どうやっても速水の居場所やら声は聞かれちまうわけか・・・。」
「瀬戸口の方は?
 いくら僕との会話が舞に筒抜けでも、君のことまではわからないじゃない。
 舞が僕以外の人間に発信機を付けるとは思えないし。
 二手で別れて挟み撃ちを狙ったこともあったけど、すぐにバレた。
 瀬戸口は瀬戸口で、何かすぐに居場所がバレてしまう原因があるんじゃない?」
「原因ねぇ・・・流石に壬生屋が発信機やら盗聴器を仕掛けてくるとは思えないけど・・・。」
速水に言われて、瀬戸口は考える。
「確証はないが、あいつ、俺の気配が読めるんじゃないか?
 廃れたとはいえ、あれでも鬼斬りの家系の生まれだから、
 鬼である俺の気配が読めても違和感は無いし・・・。
 あいつに“だ〜れだっ!”ってやろうとしたことが何度もあったけど、
 いっつも仕掛ける前に気づかれるから、成功した試し無いんだよな〜。」
「それだよきっと。
 ということは、どうしても僕らは向こうに気づかれてしまう。」
「だよな。速水は姫さんを捕まえたいのに姫さんに気づかれる。
 俺は壬生屋を捕まえたいのに壬生屋に気づかれる。
 捕まえようが無いじゃないか・・・って、あれ?」
「どうしたの、瀬戸口?」
「ちょっと待て。今、考えをまとめるから。」
瀬戸口は右手のひらを厚志に向け、止まってもらう。
そして左手を顎に当ててぶつぶつと何かを呟く。
速水は考えるのを瀬戸口に任せ、待っていた。
数分経つと瀬戸口は、
「・・・チェックメイト。」
と言って瀬戸口は指を鳴らした。
どうやら考えがまとまったらしい。
瀬戸口は不敵な笑みで速水に向き直る。
「お嬢さん方を考える作戦を考えた。
 お前さんの力を貸して欲しい。」
「・・・それで舞を捕まえられるんだよね?」
速水も口元に笑みを浮かべて尋ね返す。
「当たり前だ。」
瀬戸口は変わらぬ不敵の笑みで答えた。
「ならば乗りましょう。で、どうするの?」
「そうだな・・・。聞かれるとマズイから、筆談で話そう。
 紙と書くものを貸してくれ。」
「はい。どうぞ。」
こうして速水・瀬戸口組は作戦会議を始めた。
果たしてそれは一体、どのような作戦なのだろうか?
次週へ続く!!
・・・すみません、ちゃんと続きを書きます。
少し調子に乗りました。
下のリンクから次のページへ進んでください。



2へ