太陽がすっかり天辺を昇って昼を過ぎ。
ハンガー2階の入り口でみおとたかゆきはしゃぼん玉を作って遊んでいた。
「たぁゆきとみーや、なかなおりできてよかったー♪」
「だな!それで明日はにちようびだから、4人で遊びに行くらしいぜ。」
「やったー♪みおとたぁのゆめ、かなったね〜♪」
「ああ♪・・・でも、なんでまた急に仲直りしたんだろう?
せっかくおれ達、作戦考えてたのに・・・。」
それは本人達にはわからないが、その彼らの功績以外の何物でもなかった。
しかし、
「なかなおりできたんだもん。だから、さくせんはもういいの!」
そう、無事に仲直り出来たのだから別にいい。
「そうだな!明日が楽しみだなー、みぃ!」
「うん!!」
そしてさらにその翌日、みおとたかゆきが人間化して6日目。
「お待たせ致しました!申し訳ありません、準備に手間取ってしまって。」
「みぃ〜〜〜♪」
壬生屋とたかゆきが駆け足で尚敬高校校門前にやって来た。
いつも袴姿の壬生屋は、今日はおしゃれでも動きやすいようにとジーンズ姿だ。
あまり穿かないらしく、ジーンズの色は褪せていない。
「いや、大丈夫だ。弁当作ってきたんだろ?」
「たぁ〜〜〜♪」
正門前には瀬戸口とみおが待っていて、やって来た2人を出迎えた。
おめかしに気合が入っているみおは、ピンクのワンピースを着ている。
「はい!それもありますけど、あと・・・。
みおちゃん、ちょっとこっちに来ていただけますか?」
「なーに?」
近寄ってきたみおの頭に、壬生屋は何かフワフワした大きなものを被せた。
「・・・わぁーっ♪」
「耳を隠せるよう、帽子を作ったのです。目立って騒ぎになると楽しめませんから。
たかゆきとお揃いなんですよ。」
「ほら!」
と言って、たかゆきは壬生屋作の帽子を取り出して頭に被る。
それは柔らかいフリース生地で出来ていて、帽子の口の部分にはモコモコしたファーが付けられている。
耳を隠せるようにと、みおのはウサギの頭の形、たかゆきのは猫の頭の形である。
ちなみに、みおのがピンク色でたかゆきのは水色。
「みおちゃん、お耳、聞こえにくくないですか?」
「んーんー、へーき!ありがと、みーや♪」
みおはこの帽子を気に入ったようだ。
「すまんな、人数分の弁当作るだけでも大変だったろうに、帽子まで・・・。」
瀬戸口が壬生屋を労うように声をかける。
「全然大変じゃないですよ!だって、皆で出掛けるが楽しみでしたから。」
そんな瀬戸口の言葉に、壬生屋は実に楽しそうに笑い返した。
(やれやれ・・・かなわんな。)
そう言われてはもう何も言えない、瀬戸口は片手で頭を掻いた。
「なーなー、今日はどこで遊ぶんだ?」
会話が途切れたのを見計らって、にゃんこ帽子を被ったたかゆきが2人を見上げながら訊ねた。
すると瀬戸口と壬生屋はお互いを顔を見合わせて、くすくすと笑う。
「それは着いてからのお楽しみだよ・・・っと!」
「わぁっ!いきなり何すんだよ!」
「ほー、お前さんは猫のくせに高い所がお嫌いかい?」
「ちがう〜!!」
瀬戸口は答えると、たかゆきを担ぎ上げて肩車した。
「では、参りましょう、みおちゃん。」
「うん!」
壬生屋は両手を伸ばしてきたみおを抱き上げた。
途中、熊本駅で電車に乗って数十分後。
「「わあ〜〜〜〜〜!!!」」
みおとたかゆきは大きく口を開けて辺りを見上げていた。
「ふふっ、びっくりしました?
ここは遊園地といって、楽しい乗り物で1日中遊ぶ所ですよ。」
あまりにわかりやすく圧倒されているみおとたかゆきに、壬生屋は丁寧に説明した。
そう、ここは遊園地である。
瀬戸口と壬生屋は仲直りさせてくれたお礼と、
せっかく人間になったのだからその思い出作りとして2人を遊園地に連れてきたのだ。
「お待たせ!もう入れるぞ。」
瀬戸口がチケット売り場から戻ってきた。
みおと手を繋いで入園口に向かう。
「すみません、チケット代出して頂いて・・・。」
壬生屋はたかゆきと手を繋いで、その後に続きながら礼を言う。
対して瀬戸口は大したことではないといった風に手をヒラヒラさせ、
「チケット代は出してないよ。
前に、知り合いから無料ご招待券をもらったからそれを使った。しかも1日乗り放題♪」
種明かしをした。
「・・・女性の方からですか?」
壬生屋は瀬戸口をじと目で睨む。
「ははは・・・違うって。
何?俺がどんな女性とお付き合いしてるか気になる?」
瀬戸口は壬生屋をからかうように答える。
本当は、知り合いの芝村(といっても舞ではない)に貰った。
実験ミスでペットを人間にされた件の慰謝料として。
“そっちのミスでうちのウサギが人間にされたんだから、
せめてタダでどっか遊びに行かせてもらってもいいだろう?
あっ、ウサギがクラスメートの猫と仲良くなっちまったから、そいつと飼い主の分も。”といった具合に。
このことで瀬戸口が夜戦う理由を知る者にも、今日壬生屋と一緒に遊園地に行くことが知れ渡るわけだが、
その者もまた芝村に属する者で、壬生屋もまた“ペットを人間にされた被害者”となるので、
今日瀬戸口と遊園地にやってきたからといって、壬生屋が危険視されることはない。
ややこしいが、これで今日1日の壬生屋の安全が保障される。
(これで今日は心置きなく過ごせる。
まぁ、もちろん詳しい事は当人に言える訳がないがね・・・。)
「違います!まったくもう・・・。」
瀬戸口に笑って誤魔化された壬生屋は、面白くなさそうに唇を尖らせた。
「こら、お前!未央をいじめるなよ!」
「ふたりとも、ケンカはだめ!」
そんな2人のやり取りに勘違いしたみおとたかゆきは、2人を見上げて抗議した。
突っかかってきたみおとたかゆきの反応が微笑ましくて、瀬戸口と壬生屋はつい笑ってしまう。
「違うって。俺達はケンカなんかしてないぞ、なぁ?」
「ええ。ちょっとからかわれただけですって。」
「「ほんとに〜〜?」」
素直に信じてくれなかったみおとたかゆきは揃って声を出した。
「本当だって!なんなら今日1日、俺達がどれだけ仲直りしたか見せ付けてやろうぜ、なぁ壬生屋?」
「・・・!は、はい!望むところです!!」
瀬戸口に挑発されて、壬生屋は真っ赤になりながらも嬉しそうに頷いた。
でも、今日は小さな2人がいるからそれに合わせて仲良くしてくれているだけなのかもしれない。
そんなことが頭に過ぎったが、これはきっと神様がくれたプレゼント。
(だから、今日は目一杯楽しみましょう♪)
そう心に決めた壬生屋は、楽しそうに微笑んだ。