それからまず、広場の芝生の上にシートを広げて壬生屋作の弁当を食べる。
壬生屋の手料理を初めて食べた瀬戸口もみおも、口を揃えて“美味しい”という最大の賛辞を贈った。
贈られた壬生屋は照れたように笑い、
自分が作ったわけでもないのに(でも盛り付けの手伝いくらいはした)たかゆきは誇らしげに胸を張った。
昼食後、最初は全員一緒に乗れるようにと観覧車に乗った。
初めて乗る乗り物に、みおもたかゆきも興奮しっ放しだった。
上から園内を見下ろしながら次に乗る乗り物を決める。
次に選んだのはジェットコースターだ。
しかし、身長制限(耳は数値に反映されない)でみおは乗れなかった。
仕方がないのでみおは壬生屋と一緒に待ってることにした。
ジェットコースターにはたかゆきと瀬戸口で乗る。
乗れないことでみおはベソをかきかけていたが、代わりに壬生屋がソフトクリームを買ってくれた。
ソフトクリームの甘味を口に入れた瞬間、みおの涙はすっかり引っ込んでしまった。
ちなみにジェットコースターから降りてきたたかゆきは、みおのソフトクリームをうらやましがった。
次は2人乗りのゴーカートに2組に別れて乗った。
瀬戸口&みお、たかゆき&壬生屋である。
運転は前者が務める。
妥当瀬戸口に燃えていたたかゆきだったが、大差で負けてしまった。
今度は何に乗ろうか迷っていると、ヒーローショーが始まった。
せっかくだから見ていくことにする。
するとなんと!みおが怪人にさらわれてしまった!
黒の全身タイツにステージ上まで連れて行かれる。
突然の事に驚いてみおは泣き出してしまう。
それを見たたかゆきが瀬戸口と壬生屋の制止も聞かずにステージに乗り込んでしまったから、さぁ大変!
慌てた瀬戸口と壬生屋であったが、出演者達の機転でどうにかショーは無事に幕を閉じた。
ショーが終わった後、保護者2人は関係者に頭を下げた。
次はコインを入れたら一定時間動く動物の乗り物に乗った。
みおとたかゆきで2人仲良く同じ動物に乗る。
瀬戸口が持ってきたカメラで、何度も2人の姿をフィルムに収めた。
少し離れた所で、壬生屋はそんな3人の姿を心のフィルムに収めた(←うまい!by作者。)。
次は4人でお化け屋敷に入った。
みおは怖がったが、“大したことないから”と言って説得して入った。
瀬戸口に抱っこされて中に入る。
・・・大泣きしたのは、たかゆきだった。
入るときは自分で歩いてたのに、出るときは壬生屋に抱っこされて、すがり付きながらえんえん泣いている。
みおは何ともなかったので、手を伸ばしてたかゆきの頭を撫でてあげた。
それからまたいくつか乗り物に乗って。
日が暮れ始めて、空はオレンジ色になった。
もうすぐ閉園時間なので、これから園内をゆっくり1周する飛行船型の乗り物に乗って、
最後に全員でティーカップに乗ってから帰ることにした。
てっきり、みおは瀬戸口と、たかゆきは壬生屋と乗ると言い出すかと思ったのだが、
「みお、みーやとのる!」
「おれも、せとぐちと乗る!」
と言ってきた。
瀬戸口と壬生屋は顔を見合わせて首を捻りつつも、小さな子達の言うとおりにする。
レディーファーストということで、みおと壬生屋は先に赤色の飛行船に乗り、
たかゆきと瀬戸口はそれから少し遅れてやってきた青色の飛行船に乗る。
飛行船と飛行船の間の距離は最低でも5メートルは離れていた。
「たぁゆきー!たぁ〜!!」
飛行船がレールの上を走り始めて少しすると、
みおは大声を張り上げて後ろの機体に乗っている2人に手を振った。
壬生屋も手を振る。
「みおー!みぃ〜!!」
それに答えるように、たかゆきも大声で手を振る。
瀬戸口も手を振り返した。
しかし、距離が離れているのと園内に流れるBGMのために、声は小さく聞こえた。
みおは前に向き直ると、
「あのね、みーやぁ。」
隣りに座っている壬生屋に話し掛ける。
「なんですか、みおちゃん?」
改まって話し掛けてきたみおに、壬生屋は微笑んで応える。
「・・・ありがとぉ。」
「え?」
「みーやがたぁゆきとなかなおりしてくれたおかげで、たぁゆき、とってもうれしそうなおかおしてるの。
みおがたぁゆきのおうちのこどもになって、きょうがいちばんのえがお!」
「そうなんですか。それは良かったです。」
みおの言葉を聞き、壬生屋は心の底から嬉しくなって優しい笑みを浮かべた。
「うん!」
壬生屋の嬉しそうな笑顔を見て、みおは元気に頷いた。
そして一拍置いて、
「・・・たぁゆきはね、みおのヒーローなの。」
遠くを見つめながら言った。
その様は、普段よりも大人っぽく見える。
「よなか、みおがめをあけるとたぁゆきは、いつもすごくなきそうなおかおしてねてるの。
だからね、みおをこわれたおうちからたしゅけてくれたときみたいに、
みおがたぁゆきのヒーローになりたかったの。
だから、このあいだ、よるにひとりでたぁゆきをさがしにいったの。
どっかで、ひとりでないてるのかなって。」
あのとき、確かにみおは瀬戸口がいなくなったことに対して不安になり、瀬戸口の姿を捜し求めた。
しかし、それと同時に、どこかで1人で悲しみに耐えているのなら、
とにかく側に行って頭を撫でてあげようと思った。
でも、結局自分1人では瀬戸口を見つけることが出来なかったし、カラス達にも敵わなかった。
自分を助け出してくれたヒーローのようになって、大好きな瀬戸口を守りたいのに、
それは全く叶わない夢であった。
「でもね、みーやがたぁゆきとなかなおりしてから、
たぁゆき、ねてるときになきそうなおかおしなくなったの。
きっと、みーやがたぁゆきのヒーローなんだよ。
だからね、みーや、みおがウサギにもどったあとでも、ずっとたぁゆきのヒーローでいてあげて。」
叶わなくても、代わりに叶えてくれる人を見つけた。
だからみおは自分が人間の言葉を話せるうちに、壬生屋に頼みたかった。
みおのヒーローは強いから、本人の前で頼むと
“気にするなよ!俺はみおのヒーローだからな。”と言って、みおを心配させないように笑うのだから。
でも、そういうことではなくて、そんなヒーローを守ってくれるヒーローが必要だと思うのだ。
みおの願いを聞いて、壬生屋は真剣な表情で答える。
「わかりました。瀬戸口君のお側にいるときは、必ず瀬戸口君をお守りします。
でも、みおちゃんだって瀬戸口君を守っているのよ。
わたくしは、たかゆきと会って家族が増えたから嬉しい。
瀬戸口君もきっと・・・いいえ、絶対そう思っているはずだから。
それにね・・・、」
ここで壬生屋は1度言葉を切って、続ける。
「・・・今はまだ、ずっとお側にはいられないから。
だからね、みおちゃん、わたくしが側にいられないときは、貴女が瀬戸口君を守ってね。
お願いします。」
壬生屋もまた、みおに願いを託した。
託されたみおは心細そうに俯く。
「でも・・・みおはよわいの・・・。」
「いいえ、弱くてもいいの。」
みおの呟きを聞き、壬生屋は優しく微笑んで首を振った。
「戦う力とかそんなのじゃなくて、みおちゃんが側にいて笑っているのなら、それだけで瀬戸口君の心を守れるの。
力があるってことだけが守れるってことじゃないわ。
心を守ってあげられる方が、ずっとすごいし、ずっと強い。」
「・・・みおにもできる?みお、たぁゆきのヒーローになれる?」
みおは恐る恐る壬生屋を見上げ、訊ねた。
壬生屋は頼もしげに頷くと、
「ええ、必ず!!
みおちゃんとわたくしと、2人で瀬戸口君をお守りするのです。
もちろん、たかゆきのことも。
わたくし達2人なら、何でも守れますよ!」
そう言ってみおを励ました。
その様はテレビのヒーローのように頼もしかった。
「うん!!みおもヒーローになって、たぁゆきもたぁもまもるの!!」
壬生屋に励まされて、みおもまた決意を新たに頷いた。
何を話してるのかなと、瀬戸口が前の機体に乗っている2人を見ながら思っていると、
「おい、せとぐち!」
横から声を掛けられた。
「何だよ、お前。てゆうか、呼び捨てにするな。」
小さくため息を吐いて呆れつつも、瀬戸口は横に座っているたかゆきの方を向く。
するとたかゆきは膝の上で握られている自らの両拳に視線を下ろし、思いつめたような真剣な表情をしていた。
普段とは似つかわしくないし、そんなたかゆきの表情は初めて見る気がした。
「・・・せとぐち、未央のことたのむな。」
「は・・・?どうしたんだよ、いきなり?」
瀬戸口は驚き、目を見張りながら訊ねる。
たかゆきはそのまま両拳を見つめながら言葉を続ける。
「お前と話すときの未央、とってもしあわせそうな顔してた。
本当に未央、お前のことが好きなんだなって思った。」
「・・・そうか。」
たかゆきは視線を上げて遥か前方に浮かぶ夕日を見る。
「未央といっしょに暮らす前から、未央はお前のことを何度も話してた。
“何で仲良くできないの?”とか“わたくしはきらわれているから・・・。”って、
泣きそうな顔してばかりだったから、
もしおれが人間だったら、ずっと側にいて未央のことを泣かせる悪者から守ってやろうと思ってた。
・・・ねこは人間が思ってるより、ずっと主人想いなんだぞ!」
「ああ、知ってるよ。」
たかゆきの言葉を聞き、瀬戸口は知り合いの猫大将を思い出した。
こんなガキでさえわかっていることなのだから、本当に猫はすごいと思う。
「お前は未央を泣かせる悪者だけど、未央はそれでもお前を好きなことを止めようとしなかった。
それが悔しくて、抱きついたりして何度もこっちを見てもらおうとしたのに・・・。
でも、お前と仲直りしたから、未央は今日はいつも笑ってた。
だからさ、やっぱり未央はお前がいいんだなって・・・おれの負けだってわかった。」
1度そこで言葉を切ると、たかゆきは瀬戸口の方へと向き直り、
「未央が笑っていられるように守ってくれって、ねこに戻る前に言いたかったんだ。
おれはまだガキだから逆に守られてばっかりだけど、
お前は強いし、未央はお前がいいんだからお前に頼む。
未央がずっと笑顔でいられるように、ずっと仲良しでいてくれ。」
真摯な眼差しで言った。
瀬戸口はフッと口元に笑みを浮かべて、
「そうだな・・・本音を言うと、俺はもう泣かせたくないし、ずっと笑っててほしいよ。」
すると今度は、たかゆきの想いに答えるようにと真剣な表情になる。
「でも、俺はまだあいつの側にいてやることが出来ない。
すまんが、俺はお前さんが思ってるほど強くはないし、事情がある。
その問題が消えない限りは、逆に危険に巻き込むことになるから・・・。」
「だったら、おれがその事情をどうにかして、」
「まあ、聞け。こればっかりはどこの誰がどうにか出来るのかもわからないんだ。
一体いつになるのか、どれだけの時間がかかるのか・・・。
でも、それでも壬生屋は全ての問題が解決して俺が側にいられるまで、
ずっと待っててくれるって言ってくれた。
あいつは、本当に強いよ。俺やお前さんが思ってる以上に・・・。
だからまぁ、なんだ・・・約束するよ。
全ての問題が解決して、俺が強くなったら、必ずあいつの側にいて守るって。
それまでは、お前が壬生屋を守ってくれな。」
「でも、おれはお前ほど強くないよ・・・。」
瀬戸口の言葉にたかゆきは俯く。
「そうだなー、猫のくせに高い所から下りられなくなるし、
今日だってお化け屋敷に入ってビービー泣いてたからなぁ〜。」
「!!あ、あれはなぁ〜!!」
瀬戸口がからかうと、たかゆきはムキなって顔を上げた。
視線を合わせてきたたかゆきを見て、瀬戸口は笑い声を上げる。
「あっははは!
でも、お前には怖くても何にでもぶつかっていく根性があるじゃないか。
壬生屋だって、みおだってそれは知っている。
確かに強くなくちゃならんこともあるが、向かっていく気持ちがあるのなら、
いつか強く・・・姫を守る騎士にでも何にでもなれるさ。
だから頼むぞ〜、壬生屋を守ってくれよ、騎士殿?」
そう言って瀬戸口は、楽しそうに笑いながらたかゆきの頭を撫で回して、髪をクチャクチャにする。
「わわっ!やめろよお前〜!!」
たかゆきは両手を伸ばして瀬戸口の手を払い除けようとするが、
「止めない。」
そう即答された。
「ヤメロよっ、毛並みが悪くなるだろ〜〜!!
んが〜〜、くそっ!!
お前なんか、将来ハゲちまえ〜〜!!!」
必死の抵抗を試みるが、ちっとも取れない。
「あ、そういうこと言うか?
じゃあ、先にお前をハゲにしてやる〜〜!!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
たかゆきの髪をクチャクチャにする手が、片手から両手に増えた。
たかゆきの声にバイブレーションがかかる。
「くそ〜〜、絶対、ぜ〜〜ったい、お前より強くなってやるからな〜〜、ちくしょう!!!」
・・・結局たかゆきは、目が回るまで頭を撫でられた。
飛行船から降りた後すっかりクチャクチャになったたかゆきの髪を見て、壬生屋は瀬戸口を呆れた目で見た。
皆で笑いながら巨大なティーカップに乗った後。
4人は退場門へと向かって歩いていた。
真っ赤だった空は太陽が山の向こうへ退場したことにより、東の方からだんだん黒くなってきた。
すると、
「お〜〜い!未央ちゃ〜ん!瀬戸口〜〜!」
どこからか元気な声に呼ばれる。
聞き覚えのある声だ。
4人が振り向くと、そこには、
「あ、まつりちゃんだ〜〜♪」
5121小隊の天才事務官、加藤祭が立っていた。
みおに呼ばれて、加藤は明るく笑いながらこちらへやってきた。
「こんな所で会うとは奇遇だな〜。・・・って、何だその格好?」
加藤の姿を見て、瀬戸口が訊ねる。
「えっへっへ〜♪臨時のバイトや!
ここに親戚が働いとるからな、急に人手が足りんっちゅうことで。
今日は日曜やったし、結構時給ええから儲かったわ♪」
加藤は遊園地の従業員達と同じ制服姿だった。
被っている帽子に遊園地のロゴが入っている。
そして、何故か首から大きな一眼レフカメラを下げていた。
「ウチな、ここでお客さん用の記念写真撮ってたんや。
撮って気に入ったら買うてもらうんやけど、あんたらも1枚どや?」
「それはクラスメートのよしみで、もちろんタダ?」
「あかん。有料や。」
「なんだよ、ケチ。」
「まぁまぁ、祭さんもお仕事なんですから。」
冗談交じりに値切り交渉に入った瀬戸口を、壬生屋は困ったように笑いながら止めた。
「そやそや!出来た奥さんやな〜、未央ちゃんは。」
「そ、そんな・・・奥さんだなんて・・・。」
加藤にからかわれて、壬生屋は頬を赤く染める。
「あっはっはっは!照れた照れた♪
そんな未央ちゃんもためにも、このカメラマン祭さんが腕によりをかけてええ写真撮ったるからな〜。
はい、4人とも並んで並んで♪」
カメラを構え出した加藤に促されて、4人はカメラから数メートル離れた位置に並ぶ。
瀬戸口の足元にみお、壬生屋の足元にたかゆきが立つ。
瀬戸口はみおの肩を抱き寄せて、たかゆきは壬生屋の脚に抱きついた。
「はい、チーズ!!」
加藤は声をかけるとシャッターを押した。
「おつかれさん、もうええで〜。」
そしてカメラから出てきた写真をヒラヒラさせて乾かす。
写真が乾くと、そこには幸せそうに笑う4人の姿があった。
「「「「わぁ・・・!」」」」
写真を見た4人から思わず感嘆の声が漏れる。
「気に入った?」
そんな4人を満足そうに見ながら、加藤が声をかける。
「すっげーよ!すっげー!!」
「みおとたぁゆきとたぁとみーやが、えのなかにいるの〜〜!!」
写真を見て、みおとたかゆきはすっかり興奮して加藤の声に答えた。
「祭さん、ありがとうございました。」
「良い記念になったよ・・・はいよ、写真代。」
壬生屋と瀬戸口も加藤に礼を言う。
礼を言いながら、瀬戸口が加藤に写真代を渡した。
「はいな!毎度あり♪
それと、これはサービスや!」
すると、もう1枚同じ写真を取り出した。
「実は、最初フラッシュ焚けてなかったから、撮れてないかと思って念のため2枚撮ってたんや。
でも、両方問題なく撮れてた。
せやから、こっちのフラッシュ焚けてなかった方はサービス。金は取らへんよ。
せっかくの記念なんやから、2人とも持ってないとあかんしな。」
園内が照明で明るいからか、フラッシュが焚けてなかった方も綺麗に撮れていた。
先に渡された方と微妙に違うが、こちらの方も幸せそうな笑顔だ。
「2枚も・・・!
本当にありがとうございます、祭さん。」
感激した壬生屋は渡された写真を胸に抱いた。
「お前さんに感謝を。」
瀬戸口も再び礼を言う。
加藤は照れ臭そうに首をかしげると、
「ええってええって。
お客さんに喜んでもらえて何よりや!」
と言って、2人の礼に応えた。
すると、遊園地のBGMが変わった。
「おっ、そろそろ閉園時間や。
ほな、うちは撤収するから、皆気ぃつけて帰ってやー!!」
加藤は、4人に手を振りながらその場を後にした。
「「ありがとー!!」」
去り行く加藤の後姿に、みおとたかゆきが元気いっぱいに声をかけた。