それから4人は瀬戸口の部屋に行った。
壬生屋とたかゆきは瀬戸口の部屋にお泊りをするのだ。
ちなみに、壬生屋父には石津の家に泊まるといって誤魔化してある。
壬生屋が少し遅めの夕食を作っている間に、瀬戸口はみおとたかゆきを風呂に入れる。
瀬戸口達が風呂から上がるとすでに食事の用意は出来ていて、
1つのテーブルを4人で囲んで、楽しくしゃべりながら少し長めの夕食を取る。
夕食後、瀬戸口とみおとたかゆきが後片付けをしているうちに壬生屋が風呂に入り、
それから後はトランプをして過ごした。
もうとっくに子供は眠る時間なのにみおもたかゆきも眠くならなかったし、
瀬戸口も壬生屋も眠るように促したりはしなかった。
――どんなに楽しい時も、時計は必ず時を刻む。
時計を見ると、時刻は23:55。
もう5分ほどで日付が変わって、みおとたかゆきが人間になってから7日目になる。
芝村作の薬品の効果が切れ、元も姿に戻る日だ。
あとどれくらい人間の姿でいるのかわからないが、限界の時間まで4人で過ごそうと思ったのだ。
0:00。
時計がその日の終焉を告げ、それと同時に次の日の始まりを告げる。
「日が変わったな・・・。」
ポツリと瀬戸口が言った。
その声を合図に、4人はそれぞれトランプをテーブルに置いて、ゲームを終了する。
「たぁ・・・。」
「たかゆき、こっちへいらっしゃい。」
みおが瀬戸口の腕の中へと身を寄せ、壬生屋がたかゆきを呼んでその胸に抱く。
瀬戸口もたかゆきもパートナーを抱き返し、その想いに応えた。
それからしばし無言で、互いのゆくもりを感じる。
その時間は数秒だったのだろうか、数分だったのだろうか?それとも、数時間?
永遠なのか一瞬なのかわからないこの掛け替えのない時間を惜しむように感じていると、
「あっ・・・!」
「・・・わっ!」
たかゆきとみおの体が光を帯び始めた。
「みお・・・。」
「たかゆき・・・。」
瀬戸口と壬生屋が愛しい者の名を呟くように口にした。
そう、みおとたかゆきが元の姿に戻るときが来たのだ。
みおはウサギに、たかゆきは猫に。
人の姿ではなくなることになる。
どんな姿でもあったとしても、これから先もずっと一緒にいることに変わりはないのだが、
同じ人間の言葉で笑い合うことが出来なくなるのが寂しくてならない。
「未央、おれがねこに戻っても、ずっといっしょにいてくれる?」
「たぁゆき、みおがウサギでも、ずっとそばにいてね。」
人間の姿でいられるのもあと僅か。
ならば、今のうちに伝えられることを伝えたい。
大好きな飼い主の腕の中で、たかゆきとみおは言った。
「ええ、もちろんです。あなたは、わたくしの大切な家族なのですから。」
「当たり前だろ。みおは、俺の大切な家族なんだからな。」
壬生屋と瀬戸口は腕の中にいるかけがえのない家族にささやく様に答えた。
そして、さらに強く抱き返す。
「ありがとう、未央。」
「たぁゆき、ありがと・・・。」
たかゆきとみおはその答えを聞き、幸せそうに笑う。
徐々に人間の皮膚であったところに、毛皮が付き始めた。
たかゆきとみおの姿は、確実に元の姿に戻り始めている。
「未央。おれ、未央と出会えて、家族にしてもらってしあわせだよ。
母さんとはぐれてからずっとノラで生きてきたおれにとって、
未央はやさしくてあったかいから、母さんと一緒にいたときみたいだった。
母さんと同じくらい未央のこと大好きだよ。」
「たぁゆきぃ、あのときみおのことたしゅけてくれてありがと。
たぁゆきがたしゅけてくれるまで、みおはずっとさみしかったんだけど、
たぁゆきがたしゅけてくれたから、みおはもうさみしくないよ。
たぁゆきはね、かっこよくてやさしくて、みおのだいすきなヒーローなの。
これからも、ずっとたぁゆきのことだいすきよ!」
たかゆきとみおはさらに身を寄せて、至近距離から飼い主の顔を見つめる。
その瞳には、目を潤ませながら微笑む飼い主の顔が映った。
「わたくしもたかゆきのこと、大好きですよ。これからも、ずっと一緒にいてくださいね。」
「俺もみおのことが大好きだよ。だから、これからもずっと一緒にいような。」
愛する家族の想いを受けて、壬生屋と瀬戸口もまた、自らの想いを告げた。
するとたかゆきとみおは、本当に満足そうに微笑み、
「「うん!!」」
と、元気いっぱいに返事をした。
その体は段々縮み始めて、元の大きさに戻ろうとしている。
もうまもなく、人間の姿のときの面影すらなくなるのだろう。
完全に人間の姿を無くす前にたかゆきとみおは伸び上がって、
「これからもよろしくな、未央!」
「ずっと、ずーっとだいすきよ、たぁゆき♪」
愛する飼い主の唇に口付ける。
その瞬間、部屋中が眩い光に包まれた。
夜の闇を吹き消すかのような眩い光が去って。
気がつくと、腕の中にいるのは人間の子供ではなかった。
「たかゆき・・・。」
壬生屋が腕の中へと呼びかけると、
『にゃあっ♪』
金の瞳に茶色のトラ模様で少し毛が長めな子猫が機嫌の良さそうな鳴き声で返事をして、
喉を鳴らしながら壬生屋の頬に顔をすり寄せた。
「みお?」
瀬戸口が腕の中へと呼びかけると、
青い瞳をして耳の先と口元の毛だけ黒い瀬戸口の手より少し小さいくらいの白い子ウサギが、
その声に答えるように瀬戸口の胸にその身を寄せた。
「「・・・・・・。」」
壬生屋と瀬戸口は一筋だけ涙を流すと、静かに微笑んで腕の中の命を抱きしめた。