猫が!ウサギが!
突然人間の姿になった!!
そんなびっくり仰天な出来事が起こり、教室中がパニックになっていたが、
司令である善行の渇により皆落ち着きを取り戻した。
とりあえず、猫もウサギも何も身に纏わない姿で人間になっていたので、
ヨーコが多目的結晶で取り寄せた服を着せてやると、
「・・・すまない。今回の一件は芝村の責任だ。」
と、舞が言い出したので、皆そちらに注目した。
「芝村の・・・?一体どういうことだ?」
瀬戸口がウサギの少女を抱いて椅子に腰掛けたまま訊ねる。
ウサギの少女は4〜5歳くらいの姿で、生まれて間もないためまだまだ親が恋しいのか、
瀬戸口の首に腕を回し、ひっついたままである。
突然人間になったことに動揺しているのか、ひどく怯え不安になっている。
「きちんと説明してください。」
壬生屋もまた、猫の少年を背負いながら訊ねる。
壬生屋の背に飛びついて離れない猫の少年は6〜7歳くらいで、よほど壬生屋のことが気に入っているのか、
壬生屋が席に立ち後ろ手で支えていなくても、壬生屋の首に腕を回して体を足で挟み、自力でひっついている。
突然人間になったことが楽しいのか、好奇心旺盛に辺りを見回している。
瀬戸口と壬生屋の言葉を受けて、舞が説明しようと口を開く。
「芝村のとある研究室で、幻獣の生態を操作し、無力化する実験が行われていた。
しかし、実験は失敗し、その上誤って薬品が入った砲弾が発射。
発射されたのは1発だけであり、着弾した地点の周囲15メートル以内に人間以外の生物が居らず、
もし居たとしても中の薬品――白い粉末を吸わなければ問題のないのだが・・・。」
「よりにもよってその1発が僕らの教室に命中、
しかもその中には人間以外の・・・
瀬戸口君が連れてきたウサギと壬生屋さんが連れてきた猫がいた。
で、2匹とも煙状になった白い粉末を吸ってしまった・・・というわけだね?」
身内の失敗と言うことで苦い顔をしながら説明した舞の言葉を、
速水が引き継いでわかりやすく解釈した。
「うむ、そういうことだ。
着弾する寸前に私の多目的結晶に連絡が入ったのだが・・・遅かった。
・・・しかし厚志よ、お主動物の数え方が違うぞ。
動物の数を表す単位でウサギは“匹”ではなく、“羽”と数える。
よって、正確には“2匹”ではなく、“1匹と1羽”だ。」
「いや、単位はええから。
で、この子らはずっとこのままなん?」
動物の数の単位について語り、話を脱線させた舞を加藤が突っ込んで軌道修正する。
そして、最も気になることを訊ねた。
瀬戸口も壬生屋もそのことが気になっているので、固唾を飲んで舞の顔を見つめる。
すると舞は、フッと口元に笑みを浮かべ、
「心配はいらない。
薬品の効果は1週間程度で切れるそうだ。
効果さえ切れれば、元の姿に戻れる。」
安心させるようにそう言った。
すると、
「そうか〜。」「なら、良かったです。」
瀬戸口と壬生屋が同時に安堵の息を吐いた。
その2人の表情を見届け、舞も安心して説明を続け、
「使用した薬品は猫やウサギにとって悪い影響を与えるものではない。
よって、健康被害が起こるとは思えないが、もし何かあったら、その際には芝村が何とかしよう。
・・・瀬戸口、壬生屋。
この度は芝村の不手際で迷惑をかけた。
また、ウサギと猫が戻るまで1週間もかかり、申し訳なく思う。」
そして身内の不手際を誠心誠意、心を込めて謝罪した。
「いや、芝村のミスであってもお前さんのミスじゃないから、あんまり気にするなよ。」
「そうですよ。1週間後、無事元に戻るのなら問題ないです。」
舞の謝罪を受けた瀬戸口と壬生屋は、深く頭を垂れている舞に声をかけた。
2人の優しさに感動した舞を顔を上げ、礼を言う。
「・・・感謝を。私は良き友を持った。」
「たださ〜ぁ、」
友の温かさを感じていた舞の台詞を切るようにして間髪入れずに入った、
「何でウサギは未央りんに、猫はぐっちにそっくりなの?」
という新井木の一言が、新たな波紋を呼んだ。
瀬戸口と壬生屋は“ぎくり”と肩を跳ね上がらせ、
周りの生徒達は“そういやそうだよな?”“何でよりにもよって?”と、小さくざわめきだした。
「薬品の効果と何か関係があるのかい?」
周囲と答えが出なさそうな推論を並べるよりも、
可能性して高そうな原因について突き詰めることを選んだ狩谷が、
事の発端を作った一族の末姫である舞に訊ねるが、
「いや。それについては研究室の者でも不明だそうだ。」
舞は答えを持っていなかった。
1番有力な答えを知っていそうな舞が何も知らないから、ウサギと猫の姿についての謎は深まるばかりで、
教室中は隣りの者とざわめき続ける生徒、自分は自分で考える生徒、
何も考えずただ指に蝶を止まらせている生徒などで騒がしくなっている。
しかし、当事者である瀬戸口と壬生屋は何故だか背中に冷や汗でもかいているかのように、
気まずそうな顔をしながら無言でいるので、
「ねぇ君達。お名前は何て言うの?」
その様子にピンと来た原が、
周りに悟られないようにゆっくりと瀬戸口と壬生屋の背後に回り込み、
飼い主にひっついたままであるウサギと猫に問いかけた。
その声を聞き辺りは静かになり、それと同時に、
「げげっ!」「ちょ、ちょっと!」
と、飼い主側からそんな声が漏れ、互いが連れてきた動物がしゃべるのを止めようとしたが、
「・・・みお。」「たかゆき!」
時すでに遅し。
ウサギの少女は“みお”と、猫の少年は“たかゆき”と自らの名を口にした。
その言葉を聞いて教室中には、
『ああ・・・・なぁるほどね。』
という空気が流れた。
例外として、ごく一部の鈍い人間数人が首を捻らせている。
しかし、その例外以外はにやにやとした顔をしながら飼い主達を見つめているので、
「ち、違うからな!別に、壬生屋から名前を取ったわけじゃないぞ!
この子に名前を付けたのは、この小隊に赴任する前なんだからな!!」
と、がんばって説明しながら瀬戸口は席を立った。
しかし、それを聞いた生徒達のほとんどは、
『そのウサギ、小隊が出来た後に生まれたって言ってたじゃん・・・。』
と、心の中で呟いた。
すると今度は壬生屋がいつものように甲高い声で、
「わ、わたくしだって違います!この子はずっと前からこの名前です!
瀬戸口君と名前が一緒なのは、何かの偶然です!!」
と、力いっぱい叫んだが、やはりそれを聞いた生徒達のほとんどは、
『いや、だから昨日から飼い始めたって、さっき自分で言ってたよ・・・。』
と、心の中で突っ込んだ。
そしたら名付けられた方は名付けられた方で、
「たぁゆき・・・、みおにきのう“みお”っておなまえくれたのに、なんでうそつくの?」
「未央〜、オレ、きのうから“たかゆき”って名前になったんだろ?まちがってるぞ!」
と、素直に飼い主の誤魔化しっぷりを不信に思い、問い掛けてくるので、
どう言いくるめようか困っている飼い主とペット達の様子を見て、
『あ〜あ、決定打来ちゃったよ・・・。』
と、心の中でちょっとほくそ笑んだ。
周りの生徒達がそんな感じなので、どうにかしようとして瀬戸口と壬生屋は何か叫ぼうとするが、
「はいはい、わかってる。わかってるから。」
「そんなにムキにならないでも、我々はしっっっかりわかっていますから。」
原が壬生屋の肩を、善行が瀬戸口の肩を叩いて頷きながら言った。
目を怪しく輝かせて。
そして人だかりの向こうで、その音は極々小さい音なので気付いた者はいなかったが、
若宮が小型カメラのスイッチを入れた。
目を怪しく輝かせて。
しかし、そう諭されても腑に落ちなかった瀬戸口と壬生屋はさらに声を張り上げようとしたが、
「おめぇら何ちんたらやってんだ!授業とっくに始まってんだぞ!!とっとと校舎裏に来やがれっ!!!」
マシンガンを乱射しながらやってきた、教官である本田の声とマシンガンの音に遮られてしまった。