2307年12月24日。
平和な一般社会に属する者達にとっては今日はクリスマス・イブ。
クリスチャンにとっては主であるイエス=キリストの誕生を祝う、何よりも欠かせない日。
そうでない者にとっても、今日は大切な人と過ごす大切な日。
しかし、そんな俗世のイベントなど私設武装組織ソレスタルビーイングには関係ない。
今日もいつもと変わらず、武力介入による戦争根絶を目指し活動するだけなのだ。
だが、これから彼らの本日の予定は大幅に狂うことになる。
「スメラギさん!大変です!!」
オペレーター席でデータの解析をしていたクリスティナ=シエラは画面の向こうに呼びかけていた。
画面には戦術予報士であるスメラギ=李=ノリエガが現れ、
背景には彼女の自室と宙に浮いた酒瓶が見える。
「どうしたの、クリス?」
つい先程まで酒を飲んでいたのだろう。
やや顔を赤くしてはいるが、
その目はいち早く状況を知ろうとしている戦術予報士の目になっている。
その眼差しを受け、クリスティナは冷静に報告する。
「世界中の各軍の施設、それにテログループと思われる組織のコンピューターが、
全てシステムエラーを起こしています!」
システムエラー。
コンピューターによって程度の度合いは異なるが、要は思い通りに作動しない、操れないということである。
クリスティナの報告を受け、スメラギは驚愕の声を上げた。
「なんですって!?原因は?」
「わかりません!でも、突然何の前触れもなく急に・・・。
しかも、世界同時に・・・ともかく、すぐにブリーフィングルームに来てください!
そっちにデータを送ります。他のクルーにも集めます!」
「了解!よろしく頼むわ!!」
そう言うと同時に、スメラギは自室を飛び出しブリーフィングルームに向かった。
スメラギがブリーフィングルームに入ると、すでに他のクルーが集まって壁のモニターを見ていた。
そこには世界地図が映し出され、所々に青い点が浮かび上がっていた。
スメラギを着いたのを確認すると、クリスティナはモニターの横に立って、説明し始める。
「この青い点は全て、ソレスタルビーイングが補足している各軍の施設と、
テロ組織や武力組織など紛争を起こす可能性がある組織の施設の位置を表しています。
・・・フェルト。」
「・・・はい。」
クリスティナは端末を手にしているフェルト=グレイスに声をかけた。
フェルトは端末のパネルを操作すると、画面の青い点に重なるように赤い点が現れた。
重なってはいるが、赤い点が青い点よりやや多く映っている。
「そしてこの赤い点が、現在システムエラーを起こしている施設です。」
「・・・!」
「こんなに・・・!」
画面を見たクルー達から、驚く声や息を呑む音がした。
「人革連・・・AEU・・・ユニオン・・・。
重要施設から軍需工場まで、全部入ってるぞ・・・!」
整備主任のイアン=ヴァスティが画面に映る赤い点の位置を確認しながら言った。
「俺達がマークしているテロ組織のアジトも全部だ。
間違いないよな、刹那?」
「ああ。それに、テロ組織だけじゃない。
PMCなどの民間軍事会社まで入っている。」
任務柄、テロ組織や武力組織と戦うことが多いガンダムマイスターのロックオン=ストラトスは、
刹那=F=セイエイと確認し合っている。
「いや、ちょっと待て。
関係施設といっても、医療施設は含まれていないな。」
いつも医務室で待機しているJ・B=モレノも他のクルーと共に情報を分析していた。
「ティエリア、ヴェーダからは何か聞いてないのかい?」
「・・・わからない。問い掛けても何も返ってこない。
解析に時間がかかっているようだ。」
アレルヤ=ハプティズムに促されティエリア=アーデが
ソレスタルビーイングを総括するスーパーコンピューターであるヴェーダに問い掛けているが、
そのヴェーダであってもまだ何もわかっていないらしい。
一体何があったのかを全員が真剣に考えている中、リヒテンダール=ツェーリが、
「でも、これってチャンスじゃないですか!
今のうちに、武力介入しちゃえば楽勝ですよ!!」
明るい声で元気よく言った。
だが、彼の発言に乗ってくる者はいない。
静寂の数秒が過ぎる。
「あ、あれ・・・?」
誰も乗ってこないので、リヒテンダールは流石に顔に焦りを浮かべる。
「お前なぁ・・・。1人だけノリが軽すぎるんだよ。」
横にいたラッセ=アイオンがやれやれといった感じでフォローを入れてやった。
「でも・・・確かにチャンスね。」
それまでずっと、顎に手を添えながら黙って考えていたスメラギがポツリと口を開く。
その言葉を聞いてリヒテンダールが目をキラキラさせるが、もちろん誰もそれには触れなかった。
スメラギも、もちろんそのまま説明を続ける。
「モビルスーツは各組織のコンピューターと連動しながら動いているわ。
だから、そのコンピューターがまともに機能していないのなら、モビルスーツを発進させることはできない。
それでなくとも、自分の組織のコンピューターに原因不明のシステムエラーが起きている状況で
他の組織と戦おうとも思わないはず。」
「それより最も優先すべきことは、自軍の施設を守ること。
自らが置かれている状況も計りかねているのだからな。
もしそれが敵対組織による工作ならば、すぐさま守りを固めないとどんな危険な目に遭うかわからない。」
「だったら、各施設にありったけの兵を警戒待機させなくてはならない。
とはいっても、幸運なことに敵さんは戦えないから、
そこを一気に叩けば相手の大幅な戦力低下に繋がるぜ!」
スメラギの言葉をティエリアとロックオンが引き継いだ。
思わぬチャンスが到来し、目的達成の為に全員が動こうとする。
しかし、そこに、
『その話、少し待っていただけますか?』
突如聞き慣れぬ女性の声がし、モニターの映像が切り替わった。
画面に、見知らぬ女性の姿が映し出される。
女性は雪のように肌が白く、肩まで伸ばした髪はそれと対照的に黒檀のような漆黒。
白いワンピース姿で胸元にシルバーのクロスを下げている。
残念ながら顔は白いヴェールで隠されているが、
顎のラインや口元を見る限りでは、なかなか美しい容貌なのだろう。
年の頃は20代前半であろうが、肌のきめ細かさを見るともう少し若くても違和感はない。
そんな不思議な女性が画面の向こうで、薄く微笑みながらこちらを見ていた。
一部を除く男性陣が、思わず息を飲んで画面を見つめる。
「フェルト!」
気を取り直すとスメラギは端末を操作しているフェルトに向き直った。
フェルトはスメラギの方を見ずに、端末を操作しながら画面を食い入るように見つめている。
「今解析しています!
でも・・・嘘っ・・・勝手に画面が切り替わるなんて・・・!」
「本当なの、フェルト?」
フェルトのつぶやきを聞いたスメラギが駆け寄り端末を覗く。
「はい。ずっと見ていたのに、異常が起こる気配すらしませんでした。」
「侵入経路をあたっていますが、全然見つかりません!」
端末ではなく、メインのコンピューターで調べていたクリスティナも謎の女性の出現について解明出来ないでいる。
「まさか、ヴェーダに何か・・・!」
「いや、ヴェーダは至って通常通りだ。」
青ざめて振り向いたスメラギにティエリアはすぐに答えた。
そしてそのまま、謎の女性を睨みつけたまま、
「ならば、貴様はヴェーダが侵入を許可した存在ということか?
・・・しかしトレミーには、ソレスタルビーイングの者以外にアクセスは出来ないはずだ。
何者だ、一体・・・?」
1つ1つ推測を重ね、謎の女性に訊ねた。
全員が黙って返答を待つ中、謎の女性が口を開いた。
『初めまして。Noel(ノエル)と申します。
この姿と声はNoelのマスターのものを借りていますが、
Noelは199年前に造られたコンピュータープログラムです。
現在世界中で起きている各組織のコンピューターの異常状態は、Noelが起こしたものです。』
彼女―Noelは、自らがプログラムのみの存在だと名乗った。
それを聞いた全員に驚きの表情が浮かぶ。
その口調はとても滑らかで、人工のプログラムのものとは全く思えない。
そしてさらに、突然起こった事件について、起こしたのは自分だと言ってきた。
「まさか・・・!
コンピュータープログラムが世界中のコンピューターを操るなんて・・・。
しかも、200年近く前に造られたプログラムに・・・だと?」
“ありえない”。イアンはそう言いたそうにしてつぶやく。
『現に、ここまで侵入出来たのが何よりの証拠です。
あっ、ヴェーダさんにはきちんと事情を話して許可を得たので、ご安心ください。』
そう言うと、Noelは皆を安心させるように微笑んだ。
「ヴェーダが!?
・・・それは一体どういう事だ。納得のいく説明をしてもらおうか。」
「そうね。
プログラムでしかない貴女がここまでする目的をぜひ知りたいわ。」
Noelの言葉を聞き、ティエリアはさらに厳しい目つきをし、
スメラギは冷静で静かな眼差しでNoelを見つめる。
他のメンバーも画面を見つめている。
『はい。
Noelはマスターの命令を実行しているだけです。
マスターの命令は、世界が最も混乱すると思われる199年後の今の時代に、
たった1日だけでもいいから武力以外の誰も傷つかない方法で世界から戦争をなくすことです。
・・・いえ、命令というよりは“願い”に近いのでしょうか?
マスターが考えた例はいくつかありましたが、
この方法がNoelにとっては1番確実で成功確率が高いものでした。
なのでマスターはNoelにその命令を与えました。』
“武力以外の誰も傷つかない方法で戦争を止める”。
このNoelの取った方法とはソレスタルビーイングとは逆の道を歩むものであった。
ここにいる者達のほとんどは、そんなことが出来ればどんなに良いものかと散々悩んだ挙句、
結局は今の道を選んだ者ばかりだ。
否応無く、Noelの話に心が向けられる。
「それで世界中のコンピューターを操り、混乱させているというわけね。」
スメラギは先程までとは変わらない様子でNoelに話の先を促す。
Noelも変わらず、落ち着いた声で話す。
『ええ。
そのために199年かけて、ネットワークを駆使して世界中のコンピューターを支配下に置きました。
日々変わり行く文明と世界。
それに増えたり減ったりする組織達。
Noelの機能を持ってしても、とても大変でした。
でも、流石はソレスタルビーイングですね。
ここまで侵入してくるまでで精一杯で、ガンダムの機能までは掌握できません。
なので皆さんにお願いがあります。
世界中の科学者さんやプログラマーさんにNoelの支配が破られるまで、
武力介入を中止していただけませんか?』
穏やかに語ったNoelの願いに、ソレスタルビーイングのメンバー達はただ黙ったままだった。
Noelの真意がまだ掴めていない。
「もし・・・断る、と言ったら?」
スメラギがNoelを真っ直ぐ見据えたまま、試すように問い掛けた。
するとNoelは、
『世界中のコンピューターを一斉にシステムエラーさせるプログラムですよ。
なら、核兵器の起動プログラムを勝手に操作することも出来ると思いません?』
にこやかに言ってのけた。
「へぇ・・・それで、お前さんは俺達を脅しているのかな?
それともテロリストを気取っているつもりかい?」
ロックオンが軽口を叩くように訊ね返す。
しかし、その目は笑っていない。
“もしそのつもりなら容赦しない”とでも言いたそうな眼差しである。
だが、そんなプレッシャーにもびくともせずにNoelは変わらずにこやかでいる。
『そんなつもりはないですよ。
ただ、この状況はある意味、軽い脅迫ですね。
武力による戦争根絶を目指す皆さんが、
目の前でテロリストになろうとしている人物をみすみす見逃すわけにはいかないでしょうし。
・・・あ、Noelはプログラムですけど。
それに・・・優秀な皆さんなら、これが別に大変なお願いではないことはわかっているでしょう?』
「ああ、そうだな。」
Noelが誰ともなくかけた問いに、イアンが答える。
「あんたの製作者とあんた自身の機能がいくら優秀でも、結局はただのプログラム。
どんなに強固なプロテクトを組んで、トラップを仕掛けていてもいつかは誰かに破られる。
ワシのような優秀な科学者やプログラマーは世界中にいくらでもいるからな。
それに、ヴェーダが許可したとはいえトレミーに侵入してくること自体、
あんたには相当な負担がかかっているはず。
いくらなんでも、現状を維持出来るのは丸1日あれば良いほうじゃないか?」
『はい、当たりです。流石ですね。
今も世界中の至る所で、Noelの支配を破ろうと皆さん必死になっています。
Noelも少しでも今の状況を維持し続けようと必死ですが、
そう何時間も経たないうちに、Noelはこの姿を維持することが出来なくなるでしょう。
そしてきっと、この時代の優秀な人達の手によって、Noelというプログラムは消されてしまうでしょう。』
それはすなわち、プログラムである彼女にとっては死を意味する。
それなのにそれを語った彼女の声はひどく穏やかなものだった。
死を受け入れ覚悟を決めた者のみが持てる静かな、
そしていかなる力を持ってしても砕けることのない想いが辺りを包み込む。
ヴェールの下の瞳はどんな光を放っているのだろうか?
しかし、その光だけはどんなに目を凝らしても見えなかった。
「・・・死ぬの、怖くないの・・・?」
静まり返った空間に、フェルトの声が響いた。
小さな声であったが、この場にいる者全ての耳に確かに届いた。
穢れのない無垢な子供のように素直な問い掛けに、Noelは優しく微笑んで答える。
その微笑みは若い姿であるはずなのに、どこか母親を思わせるものだった。
『怖くはないですよ。
それでマスターの願いが叶えられるのなら。
マスターはよくNoelに言っていました。
“私は今まで、両親や先生、多くの大人に守られて生きてきた。
だから今の私があるの。
そんな風に大人が子供を、その子供がそのまた子供を、当たり前のように大切にしていけたら、
戦争なんてなくなっちゃうと思わない?
私は自分の子供を産むことは出来なかったけれど、代わりにこの頭脳がある。
ならば私は私の想いを可能な限り未来に繋げて、1人でも多くの子供を守りたい。”と。』
「・・・でも、それは言うほど簡単に出来ることじゃないよ。」
それまで黙っていたアレルヤが自嘲気味につぶやき、
Noelの言葉を、そして彼女のマスターの心を否定する。
だが、それでもNoelは気分を害した様子を見せなかった。
『わかっています。マスターもNoelも。
でも、だからといって誰かが傷つく方法を取って戦争を止めようとしても、
それにより誰かが傷ついて命を失い、また悲しみが増えていくだけ。
その悲しみを払おうとして、別の誰かを傷つけて悲しみが増えていくだけなのなら、
一体、いつ戦争はこの世界から消えるのですか?
マスターは“特に可哀想なのは子供達だ”と言っていました。
悪い大人が勝手に始めた戦争のせいで親や友達を失って、
自分も戦争に巻き込まれて傷ついたり誰にも助けてもらえずに飢えて死んでいく。
その戦争を始めた大人達にも“これ以上戦争を長引かせないため”だとか立派な理由はあるのでしょうが、
それで子供の未来まで奪い去ってしまうなら、それは絶対に正義ではない。
ただの人殺しで強奪です。
だから人は、本来ならば傷つけあって力で解決しようとしないで、
皆で話し合ってわかりあっていくべきなのです。
Noelはマスターを失ってから、ずっと1人でこの世界を見てきましたが、
何で人は・・・人間はそうしようとしないのでしょうね?
言葉で心を伝えることが出来るのに・・・。
簡単なことなのに・・・なんで・・・。』
そう言うと、さっきまで微笑んでいたNoelは悲しそうに言った。
その様は本当に人間のようで、プログラムであることを信じられなくなりそうだ。
Noelはしばらく俯いて気持ちを鎮めると、また先程までの穏やかな笑みを浮かべて言う。
『ごめんなさい、取り乱してしまって・・・。
しかし同時に、マスターをこうも言っていました。
“私はイオリアは嫌い。
その時代のことはその時代の人が考えて行動するべきなのに、
なんでこんな大昔の私達がガンダムだの太陽炉だのとお膳立てして、
自分が戦いもしないのに戦争根絶とか大義名分掲げ上げさせてどうするんだか。
お節介にもほどがあるんじゃない?”と。』
「イオリア・・・だと?
貴様のマスターとやらはイオリア=シュヘンベルグのことを知っているのか?」
Noelの口から突然現れた名前にティエリアは驚き、訊ね返した。
ソレスタルビーイングの活動が明るみになったのはここにいるメンバー達が行動を起こしてからのことで、
イオリア=シュヘンベルグの思想も、それまでこの世の誰にも知られることはなかった。
『Noelも詳しくは聞いていないのですが、
マスターはイオリアと一時期同じ研究室にいたそうですよ。
多分、その時にソレスタルビーイングのことを聞いたのではないでしょうか?
・・・さて。
Noelが説明すべきことはさせていただいたと思います。
Noelが消滅するまでの間、武力介入を中止するというお願い、聞いてくださいますか?』
Noelは話を切り替えると、改めて願いを言った。
どう返答するか否か全員が無言でいる中で、
「・・・たった1日だけ世界から戦争が無くすだけで、それでお前達は満足なのか?
お前達がやることに、何か意味はあるのか?」
それまでずっと黙ってNoelの言葉を聞いていた刹那が言った。
その瞳は真っ直ぐで、何を考えているのかわからないほどにただNoelの姿を見据えていた。
その視線を受けて、Noelもただ真っ直ぐに刹那を見つめて答える。
『わかりません。
意味はないのかもしれませんし、どうせ次の日にはまた戦争が起こって誰かが傷つくのでしょう。
でも、だからこそたった1日だけでもいいから、
悲しい理由で世界中の誰も傷つかない日があって欲しいと思うのです。
そんな日が1日でも増えて、
親の帰りを待っていた子供が笑顔でお帰りって言えたり、自分の子供が夢を叶える姿をずっと見つめていられたり、
大好きな誰かと明日また会おうねってした約束がちゃんと約束したとおりになる。
当たり前だけど大切なことがずっと叶う世界になったら、それは“平和”ということだと思います。
だから、意味はなくても、きっと大切なことだと思います。』
その声に、迷いは一辺たりともなかった。
刹那はNoelをじっと見据えたまま、黙っている。
Noelも何も言わずに刹那の視線を受け続け、他の者も何も話さない。
一瞬だったのか、または永遠だったのかわからない緊迫した静寂が訪れる。
「・・・お前達が計画したとおり、今は1つも戦争が起こっていないのだな?」
1番最初にその静寂を打ち破ったのは刹那だった。
『もちろんです。
私の支配はまだ破られていませんし、世界中のメディアに現在世界で起こっていることを確かに伝えたので、
システムエラーの詳細がわかり改善されるまでは、
どの組織も戦争を起こせないことを世界中の誰もが知っています。
テログループや武力組織では何のコンピューターも入っていなくて、
Noelが支配すら出来ないところもありますが、自作の衛生兵器と監視装置がありますので、
もしテロリスト達が一般の人達に一定距離以上に近付こうとしたら、
怪我しすぎない程度に攻撃してやめてもらいます。
施設の機能事態を操作して、一歩もアジトから出られない状態にしている組織もありますね。
なので今日1日、軍関係者の方やテロリストの方はヤキモキして過ごされることになると思いますが、
せっかくのクリスマスなんですから、お家の中で鳥の足でもかじっていてもらいましょう。』
世界中の屈強な軍人やテロリスト達が不貞腐れながら鳥の足をかじる。
その様を思い浮かべ、所々から思わず笑みがこぼれる。
刹那は刹那でその言葉に満足したようで、
「なら、問題ない。」
と、それだけを言った。
変わらずに無表情であるはずなのだが、心なしかその口元は微笑んでいるように見えた。
そのやり取りを見守っていたスメラギが、
「刹那もこう言っていることだし、1日くらいは貴女と貴女のマスターのお願い、聞いてあげましょ。」
皆を代表するように言った。
納得し切れていない者もいるようだが、反対意見は出ていないし出てこなかった。
『ありがとうございます、皆さん!』
その言葉を聞き、Noelが満面の笑みを浮かべる。
本当に嬉しそうで、見ている側もつい微笑みたくなってしまう。
「どういたしまして。
・・・といっても、どうせ貴女に脅されているのだからそうするしかないのだけれどね。」
Noelの礼に応えると、スメラギは茶化すように付け足した。
『・・・あら?
Noelはそんなことをした覚えはありませんが?』
Noelもまた、スメラギの補足的一言におどけるようにしらばっくれた。
そのやり取りに笑い声が生まれ、先程まであった緊張は欠片ほどもなくなってしまった。